部活で子供が酷い目にあっていた話

剣道の頭に巻く手拭いが水浸しになり、代わりにプール帽を被ったところ、模様のせいで紫と肌色のフリーザのようになった。

同学年だけの自主練習の日であったので、そのまま防具を付け練習していたが、途中から横暴な先輩が現れ、一人ずつ試合形式の稽古をつけ始めると言い出し、私が指名された。

始まる前に水分補給をしておきたところだが、見学したいと付いてきたボディービル部の田中に先程水を倒され一滴もなかった。

諦めようとした矢先、田中が手に飲み物を持って現れた。
タピオカミルクティーであった。
面の着脱に時間がかかる為、脱がずにストローを面の隙間に入れて飲む形式が取られるが、そもそもストローが太く入らなかった。
無理やり捩じ込み吸ったが、ブチュゥボッという汚い音と共にタピオカが渋滞を起こし、私の水分補給は僅か3滴ほどで終わった。

横暴な先輩ですら、田中のチョイスに「正気か?」と言う顔をしていた。

しかし、例え迷惑なバルクによって被害が出ようとも自己責任とされる為、そのまま練習は開始された。
僅か3滴程であったにも関わらず、先程のタピオカミルクティーが私の喉で凄まじい存在感を放っている。
結果、「面」や「突き」などと発声する際に、私の口からは新宿二丁目を思わせる酒焼けしたような野太い声が発せられ、常に頭部や喉を狙ってくる恐怖のオカマが誕生した。

恐ろしすぎる存在となってしまった。
横でカポエラを練習していた者達も動きを止めこちらを窺っている。 
諸悪の根元であるボディービル部の田中だけが
「腹から声出してけ」
などと、何故か長年に渡り部を見守っている顧問の立ち位置で声を発している。

しかも、何故か動く度に胴の防具が上にズレていき、私のフォルムは徐々にガンダムに似通っていった。
お台場のガンダムに続き、2丁目のガンダムがこの地に降り立った瞬間であった。

私は自身がガンダム化しているなどと知らず、ひたすら練習に励んだ。
私が真面目に取り組む程、2丁目色の濃いガンダムが先輩の頭部と喉を狙い蠢くという地獄絵図が繰り広げられている。

因果関係は不明であるが、先輩の面打ちに
いつもの様な覇気は無かった。
同期達は吹き出そうものなら横暴な先輩に怒鳴られる為、大変な集中力を要したという。
しかし、当の先輩も私が攻撃で至近距離に接近した際には、何かに耐えかねるような泣きそうな顔をしていた。
こうして、地獄のような10分間が終わった。

面を脱ごうと座ると、先輩が怒りながらこちらへ歩みを寄せた。
しかし、丁度面を外すタイミングであった為、先輩の視界に予期せぬフリーザが現れた。
ガンダムの頭部を剥いだら肌色のフリーザが出てきてしまった。
先輩の怒声はここで途切れた。

私と先輩は無言の時の中で見つめ合った。
同期達に本日二度目の苦しみの時間が訪れた。

ふざけていると思われたくないので、私は真顔を貫いた。
そんな中、やめておけば良いものを私の背後でボディービル部の田中が
「ワタシの戦闘力は53万です」
と、非常に完成度の低いモノマネを披露した。

先輩から怒声ではなく、悲鳴が響いたのを初めて目にした。   


【追記はこちら】
その後のフリーザについての追記があります。


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