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「ハハヌケ」03:非常に秀逸な例として

どうも、八壁ゆかりです。「ハハヌケ」第三回は、彩瀬まるさんの小説「あのひとは蜘蛛を潰せない」について書いてみたいと思います。

彩瀬さんは、文庫がまだ二、三冊しかない、期待の新鋭と言われる作家さんで、この「あのひとは〜」は、彼女の文庫第一弾です。帯には椎名林檎さんがコメントを寄せてらっしゃいます。もちろん文庫なのでお値段もリーズナブル。

「これって毒親の小説なの?」
うーん、これは人それぞれ受け取り方が違うみたいです。
恋愛小説として読む人もいれば(文庫の解説では恋愛小説と書かれています)、働く女性の苦労を描いた物語と言う人もいるかもしれませんし、私のように「同一化している毒親と必死で戦い、分離・独立してハハヌケする娘の話」と捉える人も多いでしょう。

主人公は20代後半でドラッグストアの店長をしている実家暮らしの女性です。
母親は、もう完全に毒親です。これは揺るがないッス。
様々な制約・束縛・干渉を受けながらも、主人公の女性は年下の恋人ができたことを機に、家を出て徐々に母親と距離を取っていく方向に進みます。

実家は出るので、前回散々語った「物理的距離」はできたわけです。
しかし、主人公は、母親が日頃常々語っていた、

「みっともない女になるな」

という「呪詛」とも言えるフレーズに囚われて、なかなかそこから抜け出すことができません。
年下の恋人との関係も、彼女にプラスに働きかけることもあれば、プレッシャーとして作用することもあります。

私が本当に動悸を覚えながら読んだのは、そんな主人公が母親に「反抗」するシーンです。
綾瀬さんの筆致は本当に生々しくて重くて素晴らしいのですが、それ故に、フラッシュバックを起こしそうなほど、主人公の母親に対する恐怖心や、そんな自分に対する嫌悪感、でも独立したいという希望が、びしばしと伝わってきます(なので、フラバとか恐い人は要注意)。

読了後、私は驚きました。
読者の勝手な想像として、作者である綾瀬さんも毒親育ち? などと疑問に思っていたのですが、綾瀬さんのお母さまは若い頃に他界されていたのです。
綾瀬さんが具体的にどのようにして支配的な母親に対する「あの感じ」をここまでリアルに描写できたかは知り得ませんが、やはり「支配的な母親と抗えない娘」という主題は普遍的なものなのかもしれません。

私が今読んでみたいのは、川上弘美さんの「蛇を踏む」です。友人に紹介されたもので、母からの自立・独立がテーマだと聞いたので。

ちなみに私も小説を書いておりますが、母娘のことはまだ書けないな、と思っています。フィクションにできるほど俯瞰できませんし、現在進行形で絶賛ハハヌケ中なので。
でもいつか、挑戦してみたいテーマではあります。

第二回が鬼のように長かったので、今回はこの辺で。

(以下、Amazonリンク)
彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない」
川上弘美「蛇を踏む」

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