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キャノンイーグルス☆初心者観戦記☆第二節〜『深き爪痕』〜

1.春は何処に

先週から一転、週末は冷たい風の吹き抜ける冬の寒さとなっていた。

これまでは季節外れの暖かさが続いていた。薄曇りの中、京都東寺の境内は、梅の香がほのかに漂っていた。

講堂の大日如来に手を合わせた。週末の試合の行方を祈らずにはいられなかった。

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兵庫県神戸市 神戸総合運動公園ユニバー記念競技場

キャノンイーグルスvs神戸製鋼コベルコスティーラーズ

前回覇者との一戦。

この日、怪我で主将の田村さんと副将の庭井さんは欠場した。ゲームキャプテンは田中フミさん、司令塔は小倉順平さんで挑む。

田村さんは、腕を組みまるで監督のようにグラウンド脇の椅子に鎮座していた。

この試合を見る前に12時開始のヤマハーvsリコー戦を見ていた。ヤマハの思わぬ敗戦にすっかり気落ちしたまま、私はチャンネルを切り替えた。

神戸製鋼コベルコスティーラーズ

故平尾誠二さんの思い出と共にラグビーファンには特別な響きを持つチーム。あの頃以上の強さを携えこのホームスタジアムに乗り込んできた。

対するイーグルス

主将田村さんの不在が痛い。さらにHO庭井さんの不在がそれ同様の意味を持つことを、日野さんを欠いて敗北したヤマハの試合で痛感したばかりだった。

スクラム最前列の要にして、ラインアウトで自らボールを操る背番号2番、野球に例えるとエース兼キャッチャーみたいなものか。

ソフトバンクホークスだって、キャッチャー甲斐が日本シリーズ初戦で離脱したら、あんな簡単に4連勝できなかったはずだ。

イーグルスには、試合前から試練が襲いかかっていた。

チームに大きな戦力差がある試合、ラグビーはそのルール上とてつもなく点差が開く事がある。内容は同じ『一方的展開』でも、サッカーのように5ー0、バスケのように95ー73、のようなスコアならまだ観客も納得するのだが。

キャノンを応援する身としては、気が重い80分間になりそうだ。

開幕節、NECグリーンロケッツは、神戸製鋼と壮絶なトライの撃ち合いに持ち込んだ。試合終了間際にも2トライをあげ、11点差ながら38点を挙げ、神戸製鋼のボーナスポイント獲得も阻止したらしい。

こういう試合になってくれれば、あるいはロースコアの展開になってくれれば、勝敗に関係なく試合を楽しめるのだが。

選手が入場した。フミさんを先頭に神鋼ファンで埋まるグラウンドに入っていく。

あとは祈るしかなかった。

試合が早々に壊れませんように、と。

試合が始まった。

2.我慢の前半、そして

Live映像を見ていたときは、前半半ばから悲しみとやるせなさが募っていたが、今録画を見直すと、前半25分まではよく凌いでいたと思う。

kickoff直後に神戸製鋼がグラウンド中央付近でペナルティー。距離はあったが、このPGが決まっていたら、試合の流れはまた違ったものだったかもしれない。

とはいえ、開幕戦でのもたつきを神戸製鋼はしっかり修正してきた。

強すぎる神戸製鋼

に戻っていたのだ。

前半15分までに2トライを挙げる。

試合中試合後、多くの方が指摘されているように、今日のイーグルスはセットプレーに大きな問題があった。

やはりエースかつキャッチャー庭井さんの不在は、今のイーグルスには致命的だった。特に相手が相手である以上。

前半15分に1番東恩納選手が早くも交代、22分、敵陣でのマイボールラインアウトを得るが、ボールは地面に落ちてしまう。どうにか拾い上げるが、神鋼相手にそんなミスを犯してはトライに結びつく訳もない。しかしその後、イーグルスは粘り強くフェイズを重ねた。

25分、神戸製鋼のペナルティー

沢木さんがマスクを下ろしてマイクで指示を送っていた(上記写真)。小倉選手はショットを選択、確実に決めた。

3-14

前半終了まであと15分。

同時間に行われていたパナソニックvs日野では、日野の奮闘がパナソニックのミスを再三誘い、15-5という僅差のまま前半を終了した。

イーグルスもこのまま相手に得点させず、できればあとPGの3点くらい欲しかったのだが。

神鋼はやはり神鋼だった。

これでギアが入ったのか、神鋼は前半終了までにさらに2トライを挙げ、

3-28と点差を広げた。

25点差。3トライ3ゴールでもまだ足りない。

前半で勝負自体はほぼ決してしまった。

3.業火の後半

ラグビートップリーグにコールドゲームはない以上、状況はどうあれ試合はあと40分間続く。

とはいえ、

試合には、『勝敗』『勝負』という二つの要素がある。

選手スタッフにとっては『勝敗』がほぼ全てかもしれないが、私達観客は

『勝負』の行方もみている。

たとえ結果は予想できても、

イーグルスが渾身の攻撃を続けてそれなりの点数を重ねたら、

捨て身のタックルで神鋼の得点をあと2トライくらいで抑えてくれたら、

『観てよかった。また観よう』という気になる。

イーグルスの選手達、沢木監督始めスタッフ陣には、スポーツ系エンターテイナーとして、残り40分を

観客からお金の取れる試合

にする義務を負っていた。

イーグルスにとって覚悟の後半が始まった。

しかし、開始早々神戸製鋼は2本のトライを決める。

そして、

それは後半20分になろうとする頃だった。イーグルスファンの心を完全にへし折ってしまう事件が起こる。

神鋼陣内でイーグルス15番マレー選手がボールをインターセプト!そのまま独走する。

しかし、中央ラインを突破したところで神鋼ディフェンスに捕まった。しかし、イーグルスはサポートが遅れる。長身の神鋼選手が複数駆け寄ってきた。

そこからは悲劇だった。

神鋼の選手は巧みな加速とステップで完全にイーグルスの選手達を置き去りにした。最後は5番レタリック選手が余裕を持って中央にトライ。CGも成功して

3-47

両者の力の差をまざまざと見せつけられた瞬間だった。

ただ、イーグルスはこの直後渾身の意地を見せる。

敵陣深く侵入し、マイボールスクラムから

フミさん→小倉さん→マレー選手

と見事に繋いでトライ!

小倉さんがCGもしっかり決めて

10ー47

TVはここで再び沢木さんを映し出した。

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椅子に深く斜めに座り、マスクをしたまま隣のスタッフに指示を出し続けていた。

時間はまだ18分もある。

『これだけ点差があると緊張感を保つのも難しいんですが』

解説者砂村さんは神鋼についてこうコメントしたが、それは杞憂だった。

神鋼という名の『高炉』の火は、真っ赤な炎をあげていよいよグラウンドを焼き尽くそうとしていた。

ここから4本のトライ。

イーグルスは精魂尽き果てたのか、神鋼の選手を追いきれない。

残り10分を過ぎた頃、TVは田村さんを映していた。田村さんは既にスーツに着替えていた。この行動が何を意味するのか、わからない者はいないだろう。

神鋼最後のトライは後半40分。80分経過のホーンが鳴る。コンバージョンキックも決まったところでノーサイドの笛が吹かれた。

10-73  イーグルスは大敗した。

沢木監督はくるりと背を向け大きな荷物を引きながら屋内に入っていった。

フミさんはインタビューに答えていた。深い疲労の色が浮かんでいた。

翌日のイーグルス公式HPで、沢木監督は以下のコメントを発表した。

■沢木敬介監督
見てのとおりです。今日は上手い、下手といったことではなく、しっかりチャレンジする姿勢が見たかったのですが、残念ながら見られませんでした。選手たちには「コンタクトが嫌いなのであれば違うスポーツをやればいい」と言いました。神戸製鋼はいいトレーニングをしているのだろうと思いますし、選手のスキルレベルも高く、レベルの高いパフォーマンスをしています。ただ、今日に関してはそういうチームと対戦する土俵に上がる以前の問題です。イーグルスはまだこのレベルだという現状をしっかり受け入れなければなりません。レベルアップしていくしかありませんので、やるべきことをやって次の一戦に向けて準備していきます。

沢木監督が示すもの、それは、

『頂点』を目指す旅のゴールは、まだ遥か先にある、という事実。

この日若き鷲達が刻んだ一筋の爪痕は深い。

もちろん、鋼鉄の巨人達へではなく、自らの心に刻み、その傷跡からまだ血は流れているだろう。

次の試合は3月6日。

強豪 パナソニックワイルドナイツ

戦いながら、傷つきながら、一人一人が試合毎に《新たな自分》となる事で、イーグルスは強くなる。

選手達よ!

大分の地で、ありったけの血を流して、また生まれ変われ!

〜あとがき〜

この試合で印象的だったのは、後半イーグルスがトライを決めた直後の沢木監督の表情でした。その佇まいから何かを憶測するのは失礼なので控えますが、あの時沢木さんが何を見て何を考えていたのか、今でも気になっています。

本来肖像権の問題もあり、特に映像を切り取る写真は控えていますが、この時の沢木さんの表情をどうしても残したくJsportsの映像を撮影し文中に掲載させていただきました。

沢木さんは、名将と言われながら自ら多くを語らない方です。この1シーズンを追いながら、沢木さんの智将たる一端でも知りたい、この知的好奇心に突き動かされ、このシリーズを書いています。























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