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小説スイートプリキュア、ノイズの生まれる町で平和の敵となる者だけが爪弾けるリトルネロ

すべてが音楽である、という果てしない過酷の事態。サブタイトルの中、欠かさずに散りばめられた擬音が回を重ねるごとに露わにしていくのは、それ以外のなにものでもなかった。

骸骨の巨体が掻き鳴らす不幸に我慢なんかできなくて、最初はふたり、半ば成り行きで始めたバンド。毎週のように開催を余儀なくされる命懸けのゲリラライブが、そのたびに、すべてが音楽であるこの町の喜びと苦しみを思い知らせる。
耳澄ます潮音、海風に砂が踊るその遠くに、町の名物の大ピアノを今日も誰かが踏み鳴らして。時計、刻む針、歯車の噛合い。何もかも誰も彼も。指の間に通した髪を擦ることも心臓の命のビートも音楽になる、のならば、だいっきらいと言い放つ喉の震えも、まばたきの瞬間に瞼のあいまに爆ぜる涙の水鳴りも、骨へ叩きつけた拳の内の骨の軋みも全き音楽であるほかはない。五線譜は何ものも拒みはせず抱き留める、というのならば、そんなすべてである音楽を愛せるのか、それでも愛せというのか、ならば闘うしかないじゃない、でも、誰と?

ズレとるズレとると言われ続けながら、それでも、ふたりでいるうちはどうにかハーモニーを信じることもできていたかもしれない。しかしメンバーが増えれば、チューニングも互いの音楽性を揃えることも追い付かなくなる。わかっている、そんなことは最初から知っていたはず。
不幸のメロディと幸福のメロディの鍔迫り合い、その深みではメロディとノイズの対立が背中合わせで鳴り響き、同時に音と無音の狭間に引き裂かれていた。

ずっとそばにいたもの、しかしいないことにしようとしてきたその囀りを聴く、それだけのこと。それは、すぐそばにいながら、皆がそれぞれのソロ活動に向かって離れていく予感、ズレていくことの予感。
いつまでも続く気がしていた日々、の中で膨らんでいた、解散の兆し。
ズレ続けていく。
変わり続けていく。
変身、し続けいく。
テレビシリーズと小説、それぞれのフィナーレがこの瞬間にひとつのハーモニーをついに奏でる。
もちろん、火花の瞬きよりも長くはない、刹那の調和。しかし今はもう、その散らばりを止めようとする者は誰もいない。止めるすべもない。もう、悲しくはない。
それよりは、むしろ。またいつかの日に、また新しいハーモニーの偶然が訪れる瞬間を願って。

#スイートプリキュア #書評

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