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0年ちゅぱ組 僕と赤ちゃん学校

僕は太一。 小学2年生だ。

今日も朝からママが「宿題ちゃんとしたの?」「今日は水泳の日だからまっすぐ帰るのよ!」 ピリピリしながら言った。 

 

「うわぁぁぁぁぁーん!」

今年生まれた8か月の弟の啓介。赤ちゃんだから良く泣く。覚えたてのハイハイで目を離したすきに角にぶつけちゃったんだ。ママは僕に朝ごはんを出すと、すぐに啓介を助けに向かった。  

「。。。。。。。」

 

(啓介はいいなぁ。僕は泣いたら泣くなって怒られるんだよな。)それに家でテレビが面白くて大笑いすると啓介がお昼寝から起きちゃうからって怒られて、学校でも授業中なんだから静かにって。 そしたら喋るのも怒られるから嫌に なってきた。

 …学校行きたくないなぁ。 

…つまらないなぁ。 

 

だけどそれ言っても怒られそうだし、ママが困る顔がみたくない。


支度をしてとぼとぼ学校へ向かった。 いつものようにぼーっとしながら教室へ入る。

椅子に座るとものすごく小さい。しかも座る度に『ピープー!!』と音がなる。「あれ?これ赤ちゃん用の椅子だ!」よく見ると机も椅子もみんな赤ちゃん用になっていて小さくなっている。教室をでてクラスを確認すると

『0年ちゅぱ組!!?』

「んぎゃぁぁぁー!!」「うわぁーん!」クラスメイトもみんな赤ちゃん。あれ!啓介までいる!しかもねんねの赤ちゃんからハイハイ赤ちゃんまでそれぞれ違うし、ハイハイの子はランドセルを背負っている! 

 ガラガラ…すると先生が入ってきた! 

優しそうな顔のふっくらとした女の先生だった。 

「ハイハイ!おはようございます!みんな泣きやみましょうね!」先生の声掛けだけで泣き止む子はいなかった。

あっくんウンチいっぱいでたね。 

美桜ちゃんもっとおしりが濡れているね。 

テキパキと様子を確認するかのように先生はみんなのおむつ交換を始める。僕のところに来た。慌てて僕は脱がされないように抑える

「あら、あなた全然泣かないね。熱があるのかしら?」 

「ぼ、ぼくはあかちゃんじゃないでしゅ!」

え。。。 

いつの間にか僕も赤ちゃん言葉になってるううぅ!!  

言葉が通じずに困っていたら啓介が「にいたん!ここは赤ちゃん学校だから泣かないと心配されるでちゅ」 け、啓介がしゃべってる!!?頭が混乱してきた。だって朝いつもどおりに学校に行っただけなのに…僕は怖くなり泣き出した。 

『うぎゃあああああああんん!!!』 

なんだか久しぶりにこんな大声で泣いた。先生はそんな僕を優しく抱きあげた。あったかくてほんのり甘い匂いがした。ふわふわしてきて油断したその時、僕のズボンは降ろされ、おむつ交換をされた。 


『おっぱいをたくさん飲む練習しますよ!』先生の合図でみんなちゅぱちゅぱと口を動かし始めた。僕もさっきのことがあったからみんなに合わせることにした。 

恥ずかしいけど…不思議と懐かしかった。 

そうして僕は啓介と赤ちゃん学校で色んなことを学んだ。『はいはいの特訓』『食べたくないものをはきだす授業』『うんちをいっぱいだす授業』『どんなひとでも笑顔にする授業』  

特に【どんなひとでも笑顔にする授業】は難しかった。だって授業でいろいろな表情の大人がきて一人一人顔を覗いていくんだ。一人物凄く怖い顔のおじさんがきて僕は思わず眉をひそめてしまった。そのおじさんは僕のことを笑顔で見ることはなかった。 

『赤ちゃんて大変…』その授業が終わった後 

僕はため息ついた。 

『赤ちゃんは楽そうに見えて大変なんでちゅ』となりにいた啓介が言った。『赤ちゃんは何もできない、お世話してもらってもお礼も言えないでちゅ、ただたった一つだけできることがあるでちゅ。それが笑顔にできることはできることでちゅ。』 

赤ちゃんの事いつも何もしていなくていいなって思っていた自分が恥ずかしくなった。 

『にいたん、僕はにいたん羨ましいでちゅ。』僕はえっと思った。 

お父さん、お母さんとの思い出がたくさんある事、 

しゃべったり走ったり色々なことができること 

色々な美味しいものを噛んで食べる事ができること。 

『なのになんでいつも怖い顔しているのでちゅか』 

僕はドキッ!とした。

『僕って…いつもそんな顔してる?』 

『うん、怖い顔で寂しい匂いがしまちゅ色々できて楽しいはずなのに不思議でちゅ。』 

 うん……僕はいつも我慢していたんだ。 

パパやママは啓介の世話で忙しいからって…今までずっと僕を見てきた瞳が啓介ばかり映るようになって …

啓介は赤ちゃんで仕方ないのはわかってるけど…嫌だと思う事も僕が我慢すれば、言い訳なんかしなければ迷惑かけなくてすむって。ふたりがニコニコしてるならそれでいいやって。 

だけどやっぱり寂しかった。啓介は可愛いし、弟できて凄くうれしかったんだけど、なんか今まで僕に向いていたものが色々取られちゃって悔しかった。イライラした。 

 

僕の目からポロポロ涙があふれた。悲しくて、嬉しくてでもなくなんだか僕のカチコチの気持ちが溶けていった。啓介の前でおにいちゃんなのに一番大きい声で大泣きした。 

『うぎゃあああああああああああああああんんんん!!!!!!!』 

『うわああああああああああああああああんんんん!!!!!!!』

赤ちゃん学校にきちゃって色々な目にあったけど、なんだか僕の赤ちゃんだった時に持っていた、どこかに置き忘れたものを取りにくる為にここにきたのかもしれない。

大泣きする僕を先生は抱き上げ、抱きしめてくれた。啓介も他の赤ちゃんたちもニコニコしていた。ふわふわしてきて僕は眠ってしまった。




ハッ!!

気づくと僕は道路の真ん中で母にママに抱かれていた。『良かった!目が覚めたのね!』ママは涙目だった。え?どういうことだろう。話を聞くとボーとしていた僕は道路に飛び出し、車にぶつかって強く頭を打ってしまったんだって。そういえば少し体が痛いけど大きなけがもしてない。


『最近ママが怒ってばっかりだったから。あなたの様子が変だとは思っていたけど…小さい啓介ばっかりに目がいっちゃって…ごめんね…』

啓介は近所のおばさんに抱かれていた。

『ママもう泣かないで。心配かけてごめんなさい』

『心配かけてなんて言わないの!子供はそんな事気にしないで元気でいてくれればいいの!』ママはもっと泣いた。 

僕もママの前でワンワン泣いた。ママの前で泣くのは啓介が生まれてからなかった。

啓介は『あ~あう~』としか言わなかったけどニコニコしていた。


赤ちゃん学校、恥ずかしい思いもしたけど、もう一回行ってもいいかなぁ。

   

 

 


  

 


 



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