幻の面会予約

父が亡くなった。



1週間に1回
許された面会

あまりに変貌した父の姿に愕然とした



「立ち上がる訓練をし始めた」と いう話から
現実が乖離しすぎていて、
とても信じられなかった

まぶたが、落ち窪み、
まつ毛が 張り付いて目を開くことが出来ない
むくんだ足がおりかさなって動かない

それまで
見通しが悪い場合は 退院し
自宅での看取りを希望していた。

それでも、主治医は治療を継続すると言っていた。
「まだ 重症とは言えない、もうすこし治療してみましょうよ」と。

しかし目の前の人は
とても回復していくとは信じられない様子だった。

声をかけた
「おとうちゃん」

苦しみながら
「はやく はやく」と
喘いでいる。

はやく、なにをしてあげたらいいのか。

こんなに喘いで、
苦しんでいても
マスクで口を覆うのか。



面会日 次回予約しようとしたが
その看護師はいった

「その日には 退院して、いないとおもいますけどね」



予約日は 葬式の当日になった




亡くなった時
喉の奥や 上顎に血痕があった
吸引ポットの中は 血液の混じったタンで満ちていた
血尿

抑制によるものか、
あざがあちこちに存在した。
背中にまでアザがあった


苦しみ、苦しみ抜いた痕跡




臨終に際しても
抑制され続け
点滴を抜かれなかった


不自然な体の形を
自然で心地よいとおもわれる形へもどす

冷え切った体
むくんでふくれ、シワシワになってしまった手
白くなった足


死亡のあとの手続きへ入る
慌ただしさのなかへ

本当の死因は、
どこかへ消えていくのかもしれない。

病院という ブラックボックスのなかで。



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