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『鬼滅の刃』を教育視点で超分析! 鱗滝さんの「優しすぎる竈門炭治郎」の育て方①(欠点の発見)


 こんにちは、教育畑育ちの漫画家、まあくうです。
 このマガジンでは「マンガやアニメ」、主に少年誌のヒーロー物ですが、これを「成長」という視点で分析してみようという半分ふざけた、でも半分大真面目な企画になります。

題して、
「あの少年誌の主人公は、どうやって強くなったのか。主人公を育てた師匠のヒーロー育成テクニック!!」

例えばドラゴンボールで言うと、孫悟空の師匠は亀仙人ですね。
亀仙人は「人生を面白おかしく張り切って過ごす」をモットーにした、飄々としたスケベじじいとして描かれています。
でもその修行っていうと、どんな内容か、観てる方は覚えてると思うんですが

・20キロの亀の甲羅を背負わせて牛乳配達を半年やらせる
とか、
・畑を素手で耕させる
とか、

要は「地獄のようにやりたくない作業」の反復なんですよ。育成者視点から見たら、「おいおい亀仙人、お前、弟子に言ってることとやらせてること違うじゃん!」って思うんですけど。

でも、ここで「ん?」とも考えるわけです。
「いやいやそれは自分がまだ、亀仙人について深く理解していないからじゃないか? ちゃんと細かく観てみたら、亀仙人の言動は一貫していて、すごく意外と深い育て方をしているんじゃないか」

ということでこのマガジンを作って、それを実際に検証してみようと思います。
ドラゴンボールもね、いつかやろうと思ってますが今回は別のものでやります。

第一弾は今年大ヒットした漫画『鬼滅の刃』

主人公「竈門炭治郎(かまどたんじろう)」を一人前の【鬼殺の剣士(=鬼を殺すスペシャリスト)】に育てた師匠である鱗滝左近寺(うろこだきさこんじ)、彼の育て方の秘密にメスを入れていきたいと思います。

ということで、まず鱗滝さんの紹介をしましょう。

【鱗滝左近寺 プロフィール】

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(吾峠呼世晴『鬼滅の刃1(ジャンプコミックスデジタル)』p122より引用)

・いつも天狗のお面を被っている渋いおじいちゃん
・【育て】と呼ばれる剣士育成者をしている
・元弟子で現鬼殺の剣士である「富岡義勇」から「この子を育てて欲しい」と頼まれたのをきっかけに、竈門炭治郎を預かることに

(義勇、この子は無理だ)

最初に炭治郎を見た時、鱗滝さんは「剣士としてはダメだ」と判断します。
(義勇とは、鱗滝さんの元弟子。炭治郎に才能を見い出し、育てて欲しいと頼んだ人)

しかし、炭治郎はその後一年で全ての技術を伝授、更にその一年後には「刀で岩を斬る」ほどまでに急成長し、【鬼殺の剣士】に認められるんです。

「無理だ」と判断した生徒すらプロにする、そんな鱗滝さんの教育法は一体どんなものだったのか。
今回は育成者にとって重要な観点の一つである「観察力」に注目して分析していきます。

題して!

「優しすぎる竈門炭治郎が、なぜ「鬼殺の剣士」になれたのか。鱗滝左近寺による、現代の一流指導者顔負けの最強観察力」(ババンッ)

具体的な内容についてはこの後触れていきますが、『鬼滅の刃』を見た方はもちろん、これから見たいと思ってる方にも楽しんでもらえるのではと思います。見た方は「ああ、だからあの時主人公はこんな発言をしたのか」とすでに見た内容を違う視点で見ることができますし、これからの方も「鬼滅ってこんなに作り込まれた漫画なのか!」とより興味を持っていただけるかと!


【鱗滝さん流育て方の極意 その壱】 「第一印象」の観察で、本質的な欠点を知る


さて、育成者に絶対に必要な「観察力」が鱗滝さんにどれだけ備わっているかを最初に見ていきましょう。

まず、教え子となる炭治郎と初めて会った時の鱗滝さんの反応から見てみます。

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(吾峠呼世晴『鬼滅の刃1(ジャンプコミックスデジタル)』p 93より引用)

炭治郎、ドンマイ(笑)

と、鬼を殺すのに躊躇している炭治郎を見て鱗滝さんは「駄目だ」と判断します。
理屈はこうですね。

初見の感想は? 【駄目だ】
理由は?    【決断ができないから】
決断ができない原因は? 【思いやりが強すぎるため】


的確な読みです。
実際、炭治郎は「人の頼み事を断らない優しい少年」でした。
その優しさは異常なほどで「どんな状況でも他人を恨まず、全て自分の責任だと考え」ます。
それを物語る象徴的なシーンがあります。
炭治郎は一晩で家族全員を鬼に殺され、唯一生き残った妹も鬼になってしまいます。その間、炭治郎は何をしていたかというと山の麓にいる三郎爺さんの家で夜を過ごしていた。
「鬼が出るから山に入るな」と三郎爺さんに忠告されたためです。
そこで三郎爺さんの気持ちを気遣い従ってしまったせいで、その間に家族は鬼に襲われてしまったのです。
でも、炭治郎はその時に三郎爺さんを一切恨みの感情を抱かず、自分の責任だけを感じます。

『痛かったろう。苦しかったろう。助けてやれなくてごめんな』

「自分がなんとか出来たはず」と悔やむ13歳の少年って、完璧か!(伏線)

この「思いやりの強さ」という少年の特徴を、鱗滝さんは初見で見破りました。
そして「思いやりが強く、決断が遅いから駄目だ」と判断した。

しかし、鱗滝さんは、ここですぐに炭治郎を身限りません。
殺し屋志願としてやったきたのがイエス・キリストみたいなやつだったのに「うん、君にはもっと向いた道があると思うよ」と追い返したりしなかったわけです笑

さて、それはなぜでしょう? 優しいから?
まあ元弟子の冨岡義勇に「この子を頼みます」と託されたという背景もありますが、それだけではないと思います。
そこには己も元剣士であり、また十三人以上の教え子を剣士に育ててきた鱗滝さんならではの一流の「育手」の哲学があったからです。

それは、どんな哲学かというと、もう先に結論言っちゃいますが、それはこういうことです。

その子が剣士にふさわしいかどうかではなく、その子にとってふさわしい剣士とは何かを考えること

この言葉の具体的な意味は、少しずつ分かってきますので、このまま次の内容に移ります。

【第一印象】の次に分析していくのは、その直後から始まる教え子炭治郎との【最初の会話】です。

【鱗滝さん流育て方の極意 その弐】 「たった一つの質問」をする



さあ、どんどん鱗滝さんから学んでいきましょう。
まず、これから教え子となる生徒(炭治郎)に師匠(鱗滝さん)がどんな言葉をかけるかを見ていきます。

実は鱗滝さん、自己紹介も早々に、いきなり一つ問いをかけるんですが、、その質問の内容が「えっ?」というものなんです。「えっ、なぜそんな質問から?」と思うような、一見意図が分からないものなんです。

それがこちら。


「炭治郎、妹が人を食った時、お前はどうする?」


「唐突になんて話題を振るんだ、鱗滝さん!」って驚きますよね。。

でもですね、この質問から鱗滝さんの「伝説のスピーチ」が始まるんですよ。
この後のシーンを見て僕は「鱗滝さん、すげー!!!!」って感服しましたからね「さすが師匠! 俺も一生付いていきます!」ってぐらいに笑

これから詳しく説明していきます(ワクワク)が、先にちょっとだけ書かせてください。
鱗滝さんへのこの思いを(笑)ではなく、鱗滝さんのエッセンスをこの一文に凝縮します。

鱗滝さんはこの質問をきっかけに
「炭治郎の欠点の本質をグッサリ突き」つつ、
しかし「欠点が駄目だから諦めろ」でも
「こうやって欠点を直せ」でもなく、
「その欠点を直さず、弱点にしない
唯一の道を示した」んです鱗滝さん天才!!



…ふぅ(満足)


ということで、これから順を追って説明していきますね。その前に『鬼滅』見てない方や、前見た方も内容を思い出してもらうために、いくつか必要な情報を伝えておきます。

【補足情報】 「思いやりの強さ」が生んだ竈門炭治郎の本質的な弱点】とは?


まず、炭治郎の剣士としての欠点は何かが、実は鱗滝さんに会う前に描かれているので、その点を確認します。

まず炭治郎の行動原理(目的)を確認しますが、それは【鬼にされてしまった妹の禰豆子(ちずこ)を人間に戻すこと】です家族を殺された炭治郎にとって「唯一生き残った妹を救う」ことが彼の生きる意味です。
だから、鱗滝さんの元で剣士を目指すのも「妹を人間に戻す延長線上の選択」でした。

炭治郎が剣士を目指した理由
【『家族を襲った謎の鬼』が妹を人間に戻す方法を知っているかもしれない】
→【だが、弱い自分では鬼から話を聞き出すことすらできない】
→【鬼を力でねじ伏せるだけの実力があって初めて鬼と話ができる】
→【だから鬼殺の剣士を目指す】

ただ、正確には自分でそう考えたのではなく、富岡義勇のアドバイス(というか説教)でした。
富岡義勇は、鱗滝さんに育てられた剣士で、その実力は鬼殺の剣士の中でもエリート中のエリートです。
彼とのやり取りのシーンに、炭治郎の本質的な弱点が表現されています。

人間の本性は、自分に余裕がない時にこそ最もよく現れますからね(ふっふっふ)

それは鬼と化した妹に炭治郎が襲われる場面。
駆けつけた富岡義勇の目には「鬼」に襲われている少年が見える。
当然助けようとするが、ここで少年は妹をかばい「殺さないでくれ」と言います。なるほど、少年の妹か。義勇は理解した上でこういいます。

「俺の仕事は鬼を斬ることだ。もちろんお前の妹の首もはねる」

これに対し、炭治郎は必死に説得をします。
炭治郎の弱点が最もよく現れているシーンです。

「禰豆子は人を喰ったりしないから!」
「俺が誰も傷つけさせないから」


この発言には「思いやりの強さ」もありますが、違う性格も現れています。
どんな性格だと思いますか?
それは完璧主義
自分で何もかもを背負い込もうとする「完璧主義」な性格がここで表現されています。

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(吾峠呼世晴『鬼滅の刃1(ジャンプコミックスデジタル)』p 36 より引用)

優秀な人間ほど完璧主義に陥りやすいってよくいいますよね。
まさにそれで、優秀な炭治郎は「全て自分で何とかしてきた」子どもでした。
一巻の冒頭では家族を手伝わせず、一人で炭を売りに街へ行きます。家計を少しでも助けるために「全て自分で何とかしようとする」わけです。
そしてなまじ努力家で頭もいいが故に「ずっとそれができていた

【優秀さ】と【思いやりの強さ】が炭治郎の【完璧主義】を生み出したと言えます。

もちろん、どんな性格にも一長一短。
長所と短所があります。
炭治郎は完璧主義故に努力家であり、感情ではなく理性で行動する知性も持ち合わせている。
ただその一方で「理想の実現に目を向けすぎるあまり、都合の悪い現実を直視しない」。
その証拠に、もう一度、さっきの炭治郎の言葉を振り返ってみましょう。


「禰豆子は人を喰ったりしないから!」
 →鬼である限り人を喰う可能性は0ではない。
「俺が誰も傷つけさせないから」
 →「傷つけさせない」は努力目標でしかない

 

どちらも「妹が人間を襲うかもしれないという現実」に目を背けています
彼の中で「絶対に起こらないこと(起こしてはならないこと)」なのです。
なぜそう思えるかというと優秀だからでしょう。自分の力で何とかできると考えているから、なんでも自分で解決しようとする。


【鱗滝さん流育て方の極意 その参】 「判断が遅い!」 正すのは「性格」ではなく「行動」 



さて炭治郎の欠点の本質が「都合の悪い現実を直視しない」と知っていただいた上で、鱗滝さんの質問のシーンに戻りましょう。


「炭治郎、妹が人を食った時、お前はどうする?」


この時、炭治郎は答えられずに口籠もります。
それはなぜか? もう分かりますよね。
「都合の悪い現実」だから考えたこともないのです(だから理性も働かない)

「炭治郎は答えられない」、鱗滝さんは予測していたでしょう。


「判断が遅い!」


ここであの有名な【鱗滝さんに言われたいフレーズナンバーワン】の名台詞が飛び出します。

ですが、僕が注目して欲しいのはその後、判断が遅い理由を炭治郎に指摘する場面です。

流れ的には「お前には思いやりが強すぎるから」とか「鬼にすら同情心を持っているから」って言うのが自然です。

でも鱗滝師匠はこう言うんです。

『覚悟が甘いからだ』

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(吾峠呼世晴『鬼滅の刃1(ジャンプコミックスデジタル)』p 99より引用)


なぜ「覚悟が甘い」という言い方をしたのか、育てる関係の仕事の方なら予想しやすいかもしれません。
要はこの違いです。

★「思いやりが強い、同情心がある」=【性格】→変えられない(変えづらい)
★「覚悟が甘い」=覚悟をするかどうかなので【行動】→変えられる

変えられない部分を見るのではなく、変えられる部分として指摘する
つまり指摘するのは性格ではなく、行動。

鱗滝師匠が育成者であるが故の発想です。
炭治郎の欠点である「現実を直視しない」という行動を指摘した上で、「最悪の事態を想定し、万が一の場合は、望まない行動を取る覚悟をしろ」と。

これだけでも鱗滝さんスキー!と惚れ惚れものですが、
鱗滝さんは最後にこんなニクい言葉まで添えています。

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(吾峠呼世晴『鬼滅の刃1(ジャンプコミックスデジタル)』p 99より引用)

炭治郎の考え「最悪の状況は俺が絶対に起こさない!

炭治郎の考え+鱗滝さんの教え「最悪の状況が起こった時の覚悟はしている。だがその状況は絶対に作らない

最後のこの締め括りのセリフによって、鱗滝さんの指摘が「炭治郎の主義考え方を否定するものではない」ということが伝わります。
これによって鱗滝さんの説教を炭治郎は受け入れ肝に命じるわけです。

最悪の状況は「起こる」と想定するからこそ対策が立てられます。
それが鱗滝流の「覚悟」なのです。



ということで、いかがでしたでしょうか。
いや〜、深いですね〜、さすが鱗滝さん!
ということでさらに続きます。次回はさらに深く鱗滝さんの魅力を、育手の極意を探っていきますのでお楽しみに!!


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