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恋人が夫になって、父親になった


4年間交際した恋人が、夫になったのは今から約2年2ヶ月前。
その夫が父親になったのは、1年4ヶ月前のことだ。

ただ、私が夫に対して「父親になった」と思ったのは、実際のところ、今から半年ほど前である。


私は里帰り出産だったので、息子が1ヶ月半になる頃までは実家に居た。
飛行機の距離の夫は、その間に二度会いに来た。

すでに父親ではあるが、抱っこの仕方もミルクのあげ方もオムツの替え方もぎこちなくて、俺がやる!というよりは、私がやってみる?と聞いたらやる、という感じだった。

里帰りを終えて自宅に帰り、家族3人で暮らす日々が始まり。
息子をお風呂に入れるのは、夫の担当となった。
すでに沐浴の期間は終えていたため、膝に乗せて洗い、一緒に湯船に入る。
1週間もすれば慣れて、私がそばで見ていなくとも平気になった。

息子が3ヶ月になったタイミングで、夫の育休は終わった。
育休の間に、夫はミルクを作ることや飲ませること、オムツを替えることを身に付けた。
母乳との混合だったので、ミルクの量は毎回私に確認してきていたが、それでも抱っこしている間に作ってもらえるのは助かった。


今思えば、オムツの替え方も、ミルクの作り方も、飲ませ方も、最初は心配になって私が付きっきりで見ていた。
それがいつしか「もう大丈夫そうだな」と思うようになって、任せっきりになった。


時々SNSなどで見かける「母親は分からないことを自分で調べながら一生懸命育児をしているのに、父親は調べることもせず、すぐにどうしたらいいか聞いてくる」というやつ。
我が家もそれがあった。
というか、今もそうである。

私も最初はそれに腹が立っていた。
離乳食が始まった頃のように思う。
初めてだらけの離乳食に、動き回り始めた息子、生活リズムが変わってきて、メンタルリープなのか夜中に起きる回数が増え、私は毎日何かしらスマホで調べながら過ごしていた。

そしてある日、夫に「育児してて分からないこと、私に聞かずに自分で調べてやってみて?って言ったら、どう思う?」と聞いたのだ。
そしたら夫は「調べてみたことあるんだよね。離乳食の食べさせ方とか。でも調べたら色んな説とか方法が出てきて、どれが正しいか分からなくてさ。俺のやり方とハルのやり方が違っちゃうと、息子が混乱するじゃん?だから調べるより、ハルに聞いて、ハルのやり方を真似した方が良いと思って聞いてるんだけど、嫌?」と答えた。

これには私もなるほどと納得し、それ以来、聞かれることに苛立たなくなった。
夫がちゃんと調べてくれていたという事実と、私に聞いてくるのには理由があるということが分かったからだろう。


何でもかんでも私に聞き、私の真似をし、自分からは動かないと思っていた夫を見る目が変わったのがこの時だった。


私は、自分がやっていることにばかり目がいって、夫がやってくれていることに目を向けられていなかったのかもしれない。

例えばスーパーに買い物に行く時。
最初の頃は「一緒に行くよ」と着いてきて、息子を抱っこ紐で抱えている私の隣でカートを押し、行き帰りの運転ついでに買い物袋を持ってくれていた夫。
いつの頃からか、駐車場まで抱っこして、チャイルドシートに乗せ、スーパーで買い物している間は抱っこして、さらに運転もしてくれるようになっていた。
そしてそれが「見とくから行ってきなよ」となって、今では「じゃあ買い物してる間、公園でも連れて行ってくるから、ついでにゆっくりお茶でもしてきたら?」になった。


個人差はあると思う。
各々の性格だってあると思う。

だから「男性は」と一括りにはしないが、うちの夫に関して言えば「口で説明するより、とりあえず一度やらせた方が良い」かつ「やらなきゃいけない状況になればやる」人間らしい。

それが分かってからは、過保護になるのをやめた。
息子に対してではなく、夫に対して。

考えてみれば、自分だって分からないなりに試行錯誤し、時には失敗もしながら育児をしているわけだ。
それなのに夫に対しては「失敗したらどうしよう」「ひとりじゃ出来ないかもしれない」「何かあったらすぐ手助けしなきゃ」なんて思いの私がそばに居る。
そりゃあ、父親として成長するもんも、しない。



息子が9ヶ月になる頃、夫に「こんな感じのバランスになるように好きな組み合わせで食べさせて」とストックしてある離乳食の説明をして、だいたいの生活リズムを伝え、半日ほど息子を任せて出掛けた。
何かあったらいつでもLINEしてねと伝え、正直不安もあったり気にはなったが、一度任せてみないとダメだと思ったから。

11時頃に出かけて、17時前に帰宅した私。
途中、夫から来たLINEは1回のみ。
「離乳食全部食べてお昼寝した!」だった。


ああ、任せても大丈夫なのだと、安心したのは私だけじゃないようで。
夫も「ひとりでも見てられる」と安心し、自信がついたようだった。

それ以降「たまには出掛けて来ていいよ」と言われたり、「離乳食食べさせとくよ」と言われたり、「ちょっと息子連れて散歩してこようかな」などと言うようになった夫。

あぁ、父親になったな。
私はついに、そう思った。


息子が1歳4ヶ月を迎えようとしている今。
今日も今日とて、私が買い物に出掛けている午前中、夫は息子と留守番し、お昼ご飯は自分も食べながら息子にも食べさせ。
満腹になった2人は、気付けば寝室で並んで昼寝をしていた。
私が夕食の準備を始めると「ちょっと公園に行ってくるよ」と、1時間ほど2人で出掛けていった。

息子も、随分と夫に懐いた。
今では私を素通りして夫の元へ駆け寄る時もあるし、朝の出勤時はたまに寂しいからか泣きながら見送るし、帰宅してきた夫のことは笑顔で出迎えている。
相変わらず、お風呂は夫と入ることが多い。


昨夜、3人で外食をしている時に、夫が言った。
「息子が可愛くて仕方ない」と。

息子の「初めて」を、数多く目にしてきた私とは異なり、里帰りや仕事の関係でそれを見逃してきた方が圧倒的に多い夫。

息子の「初めての一歩」を一緒に目撃出来たのは、とても大きかったように思う。
あれ以来、夫の「息子の初めて」を目にしたいという気持ちが強い。

そのため「今日はいつもと違う公園に連れて行ってくる!」「今日は俺が支援センターに行ってくる!」「これってもう食べれる?食べさせていい?」などなど、自発的な行動がとても増えた。

食材クリアリストのアプリも共有していて、ちゃんとそれを見ているらしい。
たまに仕事帰りにコンビニに寄る夫は、私にもコンビニスイーツなどを買って帰ってくれるのだが、最近は「これ、ナッツもはちみつも入ってなかったから!」と、息子とシェア出来るものを買ってきてくれる。

私が体調を崩した時、丸一日寝ていられたのも、夫が居るから大丈夫だと安心出来たからだ。
ちなみにその日、息子も体調が悪く、夜中に3回も嘔吐したのを片付けて着替えさせて洗濯までしてくれていたのを爆睡だった私は後から知った。


母親は、パパも育てなきゃいけない、なんてよく言うけれど。
育つ環境さえ用意しておけば、夫は勝手に父親として育つのだと思う。
そう、私が母親にならなければいけない環境になったのと同じように。


私はまだ、自分自身が母親になれたとは思えないのだけれど。
夫は、立派に父親だなと思う。

だから私も、夫に、そして息子に、母親だなと思われるようになりたいなと思う。


恋人が夫になり、父親になった。

いつか息子が夫のことを「お父さん」とか「パパ」とかって、初めて呼ぶ瞬間を、夫婦で一緒に目にするのが、今の私の密かな願いだ。

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