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狂おしいほど透明な日々に

時速36km 2ndミニアルバム「狂おしいほど透明な日々に」リリースおめでとうございます。

例によって、心の奥底に沈澱した感情を引き摺り出すべく筆を執ります。
なお、この文章は最終曲まで書き終えた後に書いています。
わたしがこうして筆を執り、宙に放り投げる行為にも何かしらの意味があるんだと一通り書き終えたあとそう思える実感が確かにあった。

もし気が向いたら受け取ってもらえたらいいなと思う。
そうして私の心が貴方の中で息続けることができたなら何よりの僥倖です。

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M1.ブルー

突きつけられる言葉の連弾に視界が明滅する。
静かな印象を受けるCDジャケットからは想像できない幕開けに心が一瞬置いてかれるようだった。
ほどなくして、身体が音を拾おうと揺れ始める。


衝動や鼓動が音になるのなら、まさにこれだ、と思う。


なにより、サビ前でふわりと浮く感覚が気持ちいい。
目の前に、痛いくらいの風が吹く。
絡れる足が止まらない、それでも走り続ける、涙も汗もそのままに、どこまでも、どこまでもいける。
この瞬間の爆発力というか、ここまでの最大瞬間風速はなかなか出せるもんじゃない。
これぞ時速36kmの真骨頂。この曲をアルバムの頭に置いた彼らの信念に拍手を送りたい。

「嘘でもいいし誤魔化していい
少しでも心が燃えるなら
でもあなたが信じた地獄には背かないで」

ブルー/時速36km

「少しウェーブのかかった髪のような
捻くれたあなたが 身を捩ってまで輝く姿は
とても美しいこと」

ブルー/時速36km


自分の信じた自分を行く”あなた”のこと、”俺たち”のことを、善悪という尺度を越えて見つめ続ける姿勢が、彼らなりの不器用な愛の形なのだと思う。


吹き荒れる風の中、視界は一面のブルー、騒がしい心臓を携えながらギア全開で最初の一段を飛び越えて行く。


M2.かげろう

音作り、アルバムの中で一番好きかもしれない。
音のざらざらした質感が、ノイズ混じりの情景っぽくてカッコいい。

「ショートケーキの白の眩しさで
悪くなった目で見る超現実」

かげろう/時速36km

特にお気に入りの歌詞。日常の風景の中に突然投げ込まれるフィクションの爆弾みたいでかなりイカしている。慎之介さんの言葉を介して覗く世界は、ものすごく純度の高い反射鏡みたいだ。現実も非現実も本当のこととして同じ場所にあるように思う。
シングル版よりもさらにフィクション然とした音作りも聴きどころだ。

尺が3分未満だと体感もそれはそれはあっという間だが、過ぎ去っていく温度がかえって心地よい。

サビの青春群像具合よ。少年漫画各方面、タイアップ待ってます。ファンより。

M3.助かる時はいつだって

歌詞がオギノテツすぎる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
オギノテツの歌詞だこれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「起き抜けの昼」、「橋の欄干」、「夕方4時のドラマ」、「青らむ街と脱衣所の寒さ」。
日常の鮮明さが光るワードチョイスにオギノテツを感じる。
こういった映像的描写が巧いのは(確か)オギノ氏が映像を齧っていたから(違ったらごめんなさい)だと思う。
慎之介さんとはまた違う世界の切り取り方というか、今回は二人それぞれの作詞に違いが色濃く出ていて興味深い。

「2DKの間取りでは一輪挿しが日々を選んでて」

助かる時はいつだって/時速36km

いや、オギノテツすぎる・・・・・・・・・・・・・・・・。

なんにせよ、ポエトリーチックに日常を歌ってもクサくならないところが非常に巧み。時速の前作のレビューでも触れた気がするが、とにかく作詞・オギノテツ/ボーカル・仲川慎之介の親和性が半端ない。二人が出会って一緒に音楽をやることって、このクソ長い歴史において特別な意味を持っているんじゃないかって、本気でそう思ってしまうよ。

M4.Cakewalk

弾き語りではじめて聴いた時からずっと好きな曲。最初全然曲名聞き取れなくて「景気良く」だと思ってました。

ライブハウスで聴いた時はめちゃくちゃ踊れるサウンド!って思ったけど音源になると思ってたよりもしっとりしていてこれはこれで良い、となるなど。

「夕焼けの特に光って見えたとこ
目え悪くなりそうでも見ていた
あれ指輪かイヤリングにでも、
とかベタなこと思っていた

君がなんかしらで死ぬ時
最期の瞬間にうまいこと夕日が見れなくっても
それがあればまだ結構マシでしょ」

Cakewalk/時速36km

珠玉のラブレターだよ、こんなのは。どうしてくれる。

「ラブソング」然り、愛と夕焼けを重ねる仲川慎之介に彼の生活が透けるようで嬉しい。
オギノの描く”二人”は
「暮らす部屋の中=二人だけの空間」、
慎之介さんの描く”二人”は
「見た景色のすべて=有象無象に包含される二人」
という感じがする。

「金色のカステラ 火星に咲いてた花
全部全部あげよう そんなふうに思ってるよ」

Cakewalk/時速36km

このSF感溢れる一節が曲調にマッチしていてとても気持ちが良い。お気に入り。

「全部全部あげよう
全部全部あげよう
それくらいは
なんてことないんだよ」

Cakewalk/時速36km


本質は、本当にやれるかどうかではなく、試行錯誤しても絡まっても不器用でも自分なりのひとつの答えを出すことにあるんだと思う。

愛の証明なんかできやしないから、真心を込めるしかない。その切実さこそが愛なんじゃないかって、わたしはそう思います。

M5.シャイニング

救われるだなんだって簡単に言いたくないんだけれど、こればっかりは言わせてくれないか。

とても思い入れのある曲で、だからこそなにか言うのも野暮な気がしてしまう、のでここに限り言葉は涙と一緒に飲み込もうと思います。

この曲が一人でも多く行き届き、その光が限りなく渡ることを心から願います。愛を込めて。

「あなただけは悲しいことの
すべてが届かない場所へ
そんな愛の歌」

シャイニング/時速36km

M6.stars

「さぁ 蝋燭を消して
君は俺の天使になる 
そう二人にとってただのとても綺麗な夜
殺してやりたいわ
見つけ出して八つ裂きにして
死刑囚になるはずの
彼の時効最後の夜」

stars/時速36km

とんでもないパンチライン。初めて聴いた時、心の底が震えたのを覚えてる。
はじめは前半と後半で対比表現になっているのかと思ったけれど、最近は二つは延長線上にあるんじゃないかという解釈に落ち着いている。等しく、地平線上にある一つの夜で結ばれているイメージ。

「総工費なん十億 国道沿いの真上に夕月
君と手を繋いで歩く」

stars/時速36km

前述の

慎之介さんの描く”二人”は
「見た景色のすべて=有象無象に包含される二人」
という感じがする。

というのが色濃く表れている一節。
冷静に考えると、二人に焦点を当てるには広角すぎるんですよね。でもそれこそが慎之介さんの等身大の世界の見え方なんだろう。こんな視野を持てる人はなかなかいないよ。このスケール感が最近の慎之介さんの歌詞の魅力だと思います。

静謐な雰囲気と詩的なフレーズ、そこに重量感のあるリズム隊、鮮やかなギターの音色、そしてあたたかみのある声色が重なる。絶妙なバランスを保ちながら、ゆったりと流れていく4分半。
日が暮れて星が巡っていく静かな情景がパノラマ写真のように美しく展開されていく絵画的な美しさ。


時速36kmがまた一段、世界の彩度を上げていく。

M7.化石



テンポを転がしながらめくった頁も、残り数ページだと手触りが教えている。



透明になった心臓をなぞるような、繊細なメロディに思わず涙が込み上げる。
良い映画を見たあとのエンドロールの余韻に近いそれを感じる。いつか映画館を借りたらこの曲を流そうと決めました。

「今見つめてるこの景色も
枠すらなけりゃ思い出にもならない」

化石/時速36km

ハッピーエンドでもバッドエンドでも、はたまたメリーバッドでもない。きっと多くの私たちはいともあっけなく終わりを迎えるでしょう。
ありふれた、名前を持たない終わり。
それでも、もし、誰かが覚えていてくれたなら。
何かを遺せたなら。

「化石になる時まで
なるべくでいいから覚えていてくれよ
忘れ去られることが
思ったよりも怖くて夜に泣いてる」

化石/時速36km

これはどこまでもさみしい魂の歌。

あわよくば、わたしがこのアルバムを聴き、認めたこの文章が電子の海でいつか誰かに発掘されることがあったなら。
たとえそれが10年後でも、1000年後でも。
私はそれをもってして彼らに貰った愛を還すことが、たとえ少しだけでもできるのかもしれない。

たったひとりの私の大きなひとりごとが、
遠い日の木々を揺らすかもしれないだなんて
なんてロマンがあるんだろうか。
果てしない流れを前にしたときの寂寥感や虚脱感の先にほんの少しの灯りが見える。


これはどこまでもさみしく、愛おしい魂の歌。

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改めて、新作リリースおめでとうございます。
きっと前作よりも多くの人の手に届くであろう今作。この一枚が彼らと共にどんな風に歩んでいくのか。純粋に楽しみな気持ちでいっぱいです。

貴方には貴方の、わたしにはわたしの日々があり、
それは必ずしも孤独や悲しみには為らないということ。

東京、江古田、時速36km。
誰にも勝てない音楽を。