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のぞみが叶った日

 佐世保市の南西にうかぶ島に行ってきた。黒島という島だ。

 何年前だったか、その島に行こうとしたことがあって、でも予定していた日が雪になって中止した。その後、その島にある黒島教会が工事に入って、工事期間中でもいいかなとおもいつつも、訪問を先延ばしにしていた。工事というのは耐震対策・保存修理工事で、つまり大規模なものだったため2年ほどを要して、今年(2021年)の2月に完了している。

 前回もTKさんと行こうとしていたのだけど、やっぱり私はTKさんといっしょに行きたいとおもっていた。黒島にはレンタカーもタクシーもなく、歩くかレンタサイクルかという選択肢になってしまう。あとは車ごとフェリーに乗るかである。TKさんといっしょとなると、車が必要だ(元気だけど79歳なのだ)。
 行くと決めたのが11月の終り頃で、TKさんの都合を聞き、天気をみて、フェリーの空きを問合せたら、もうすでにけっこういっぱいだったので焦った。電話口のお姉さんがいうのには、何かの工事が島でおこなわれていて、そのため工事車両の予約でいっぱいなのだという。いろいろ調べてくれて、島の滞在時間が1時間ちょっとというスケジュールでとれた(日帰り希望だったので)。教会に行く時間がとれればいいとおもった。

 黒島に行く船は相浦あいのうら港から出る。長崎市内から外海にTKさんを迎えに行って、雪浦ゆきのうらをまわって向かう。船が出る時間には充分間に合った。お昼をまたいだ行程だったけれど、TKさんは船がちょっと弱くて、食べないかもしれないとおもいつつ訊ねてみると、やっぱりいらないという。私はふだんからお昼を飛ばすことが多いので、そのまま港で船を待つことにした。この日は、前日大雨が降って、まだ空がぐずぐずとしていたし、風が強かった。私は揺れても平気だけれど、TKさんが心配だった。

 フェリーに車を積み込んで、座席に座り、船が出発した。白波がたっていたけれどそう揺れなくて、TKさんも平気そうで安心した。ただ、途中経由する高島から黒島に向かうときの風が向い風で、5分くらい到着が遅れた。つまり滞在時間がさらに短くなったのだ。気もちが焦る。
 そうはいっても黒島港から教会まで、信号はなく、すぐに着いた。冷たい風が吹くなか、教会守のYMさんに挨拶をして御堂に入った。静かだった。

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 黒島教会の特徴は、まず主祭壇の内陣に有田焼のタイルが敷き詰められていること。柱の土台に黒島特産の御影石が使われていること。マルマン神父の手による説教台や、木造シャンデリアが現存していること。それから御像が多かったのにはおどろいた。また、天井などの木目が手描きというのも有名で、理由は上等の材料を使えず、だけど立派な教会堂を建てたいというおもいから、安い板に手描きしたというのだった。刷毛目という手法らしい。

(長崎の教会では堂内の写真撮影を禁止しているので写真はない)

 黒島には潜伏キリシタンがいて、禁教下でも信仰をもち続けた。1864年に大浦天主堂が建てられ、そういった話を聞いた黒島の信徒2人が神父に会いに長崎にやって来たのはその年の5月のことらしい。まだ禁教令はとけておらず、ポワリエ神父が変装するなどして黒島へ渡り、ミサをおこなうなどしていたとある。この頃長崎に住む外国人には、遊歩規定により行動範囲が限られていた。禁教がとけたあと、黒島の潜伏キリシタンのほとんどがカトリックに復帰している。

 現在の教会が建てられる以前には、ペリュー神父によって木造の初代教会が建てられていたけれどすぐに手狭になったことで、マルマン神父は着任と同時に教会建設の意思を掲げていた。1900年より整地作業をはじめ、島の外から煉瓦などの材料を購入し、地元特産の黒島御影を使うなどして1902年に完成(献堂)となる。

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 ときどき小雨の降る曇天だったけれど、堂内にいると日が差して、ステンドグラスを通った色とりどりの光がシャンデリアにあたってきれいだった。

 教会を出て、すぐ隣の資料館に立ち寄ってYMさんに挨拶をした。彼はメディアにも出ることがあるが、ほとんどひとりで来訪者の対応などをしている。何年か前に2度ほど顔を合わせたくらいだけれど、工事中の様子や島の歴史などを話してくれた。この間書いた久賀島の彼もそうだけど、日々ひとりで色んな対応をするというのは、たぶん実際はすごく大変だとおもう。また勇気をもらってしまった。

 時間があったらぜひというので、墓地にも行った。教会の裏手にあって、車で近くまで行き、マルマン神父のお墓を探して手を合わせた。

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 文中のポワリエ神父、ペリュー神父、マルマン神父というのは皆パリ外国宣教会の神父様たちだ。天草や五島、長崎、奄美大島などでの活躍が大きく、彼らの経歴を読むと(2頁ほどにまとめられているとはいえ)感じることはやはり、それがどんな信仰かという私の中の問いになる。いつもそれがどんなものか知りたいとおもう。

 TKさんは黒島には以前も訪れていて、いつものことだけれど私のわがままでついてきてもらった。慌ただしかったのに、たのしかったと言ってくれた。お世辞かもしれないけど、素直な気もちだとおもって受けとめている。

 TKさんを降ろして、家に向かう途中で黒崎教会のイルミネーションが目に入った。きれいだな、とおもいながら、車をそのまま走らせた。写真を撮ればよかったな。私はいつも、思いつくのが遅い。

▽堂内の様子がここでちょっと見られます

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