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10分で書いた1ページ戯曲3本/不破静六

1ページ戯曲を書いた。いずれの作品も、友人とのZoom談話会をきっかけに、10分の制限時間を設けて作り上げた。

ぎ‐きょく【戯曲】
〘名〙 (雑戯の歌曲の意) 上演する目的で書かれた演劇の脚本、台本。また、その形式で書かれた文芸作品。ドラマ。劇作品。劇文学。

コトバンク

ちなみに自分の好きな戯曲は、倉田百三の『出家とその弟子』だ。

テーマ「やむをえない犠牲」

【登場人物】
谷川町議 79歳
太田典子 62歳
真庭利朗 88歳

【舞台設定】
真夏のある日。
湿気がムンムンのプレハブ小屋にて、パイプ椅子に座ってテーブルを囲む3人。

【本編】
谷川「やから言っとるやないですか、ここば建設したらどんだけ町が生き生きするか」
太田「そんなの勝手に進めてここらの自然はどうなるとですか。こっけ昔から住んどらす人たちば考えんでから、そがな話は進められんでしょう」
谷川「ばってん、そんまましとってみんしゃい。去年のごと大雨の降ってみたらどうするとね。下の町が洪水になるでしょうが。そん人たちは死んでもよかと言うとか」
太田「そう言ってこの上流の歴史ば無くならしたらいかんでしょうもん。ここでしか生きれん人もおるとですよ」
真庭「そがなきいきい言わんでよかろうもん。結局人は死ぬとやけん。仕方のなかこと。そんときにどがん政治になっとるかで運命は変わる。上の町が残ろうが、下の町が残ろうか。わしたちにはどげんもできん」

上流の住民が生きるのか、下流の住民が助かるのか、トロッコ問題の話。建設反対の太田は、激しく突っかかるが、実は住民とは全く関係ない部外者かもしれない。上流の町に住んでいる真庭爺さんは、誰が犠牲になるかは自分たちで決めることはできないと悟って、世界の流れに身を任せる無常感を体現している。

テーマ「女の子は泣いてもいいが、男の子は泣いてはいけない」

【登場人物】
やーぷん 21歳
ロッチ 20歳

【舞台設定】
スーパー銭湯からの帰り道。
氷点下近い気温の夜。国道をたびたびトラックが走っている。

【本編】
やーぷん「あ、雪だ」
ロッチ「ほんとう」
やーぷん「(口を開けて空を見上げながら、)おいしい」
ロッチ「(顔をしかめて)酸性雨まじってるよ」
ロッチ「(サーモン握りをレジ袋から取り出して、)はい、口開けて」
やーぷん「(握りずしを一口で頬張って、)う…うう。
ロッチ「…どうした?」
やーぷん「はなツーンて、ツーン」
ロッチ「そんな辛い?(と、握りを手で掴んで、一口かじる。目を閉じて味わう)…全然じゃん」
やーぷん「(涙ぐみながら)そんなことないでしょ…あ!?(寿司のパックを眺める)ロシアンルーレット寿司って!?」

ロシアンルーレット寿司が、女の子に当たって、男の子に当たらなかった話。泣いてもいい女の子だから、かみさまにえらばれて当たった。温泉であたたまった後、雪で冷えて、わさびでまたあったかくなる気持ちよさ。大学生カップルの何気ない日常。

テーマ「嘘が隠れている」

【登場人物】
幼き子 8歳
禅僧 39歳
薬師如来

【舞台設定】
古びた御堂の中。薄暗い仏壇に二つ蝋燭が灯っている。
部屋には幼き子と禅僧が向かい合って座っている。
外は虫の鳴き声。時折蛍が飛ぶ。

禅僧、経典を開いて、蝋燭のもとで読んでいる。
幼き子、鼻水を垂らしながら禅僧と背中合わせに座っている。

【本編】
幼き子 「(大声で)じゅげむじゅげむ五劫の擦り切れ海砂利水魚の食い道楽パイポパイポポイポイのポイ」
禅僧 「(つぶやくように)むしきしょうこうみそくほう。むげんかい。ないしむいしきかい」
幼き子 「もうじゅげむ覚えるのあきたー。ねえおじさん次なにしてあそぶ?」

嘘が隠されている。メタ的な嘘だ。ポイントは禅僧であること。禅宗といえば禅問答。無。禅問答から有名なものを引用する。

 趙州さまに、ひら坊ずがたずねた、「犬にも仏の性質がありますかね?」趙州がいう、「無じゃ!」

 無門がいう——禅には開祖このかたの関所があり、悟るためには行きづまらねばならぬ。関所も通らず、行きづまりもせねば、まったく草木同然のたましいだ。
 (中略)
 三百六十の骨ぶし、八万四千の毛穴、全身をもって疑い、「無」の意味を知れ。よるひるひきしめて、「虚無」にも落ちいらず、「有無」にもかかわるな。焼けた鉄のたまをのんだようなぐあいに、はき出すこともならず、これまでの悪分別をとろかし、だんだん練れてくると、自然に内もそとも一つになる。

魚返善雄訳1955『禅問答四十八章 ー「無門関」新訳ー』學生社、pp.14-15

答えは次週。

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