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読書感想文:ここじゃない世界に行きたかった/塩谷舞



以前から気になっていたこちらのエッセイを読みました。
塩谷さんのイメージは、バズライター!インフルエンサー!NY在住!という感じだったので、キラキラなライフスタイル系の本かと思っていたけど、良い意味で裏切られました。
読み始めて真っ先に思ったのは、曇り空のようにグレーがかっていて、静寂漂うような文章が美しいなと。

塩谷さんがご自身の経験と生活を通して考えたこと、今の私にとって新しい視点になったし、シンプルに良いな〜と思うところが多かった。
せっかくなので文章にまとめつつ、思考の整理をしたいなと思います。
(3000字オーバーの熱量多めになってしまいましたが、良ければぜひ!)

美しさを継承すること

一章のタイトルは「共感、美しくあること」
塩谷さんの美の哲学とそれに至った経験が描かれています。
私が印象に残ったのは、塩谷さんがアイルランドに語学留学した際のエピソード。当時、日本が令和を迎えたことをきっかけに「和暦」について説明をした塩谷さん。「なんて面倒臭いシステム!」と返されると思ったら、絶賛されたそう。

…独自の暦を守り、独自の言語を守り、独自の文化を今も守っている。そのことがいかに尊いことであるかを熱弁された。(p.81)

アイルランドではアイルランド語を喋れる人はわずかであり、彼らの言語はすでに過去のものとなっているらしい。この本で初めて知ったのでびっくりした。
もし同じように「英語の方が便利だからという理由で日本語が今後無くなっていく」なんてことがあったら、悲しいことだと思う。
世界には様々な言語があるから美しいのであって、一つの言語しかない世界はつまらない。言語というのはその国の歴史や文化が反映されたものなので、日本語には日本の美しさが宿っていると思うと素敵じゃないですか?

この極東の小さな島国の伝統を継承しつつ、それを未来に残していくこと。それが尊い行為であるということ。改めて覚えておきたいなと思いました。


正解をすぐに求めてしまう

最近自分の中でモヤモヤしていて、でもうまく言葉にできないような思いが見事に言語化されている!という勝手な感動がありました。笑

そのうちの一つのエピソード。二章の「先に答えを知ると、本質に辿り着きにくくなる」では、塩谷さんは何か経験をする時に「先に答えを得ようとしていること」に気付いたそう。
「正解を簡単に手に入れてしまうことは、その先の自由な可能性をピシャリと閉ざしてしまうことでもあり、感性が育たないので勿体無い」と書かれています。

すごくハッとした。
数年前からかな?私は何事も行動する前に、ネットで情報を求めているようになりました。

今読むべき本は?
見るべき映画は?
社会人がやるべき趣味は?

書き出してみると「するべき」だらけで恐ろしい。笑
でもとても真剣だった。もはや調べ疲れて、情報だけでお腹いっぱいになって、結局行動しないなんてことも沢山ありました。

何故だろう?と考えると「失敗したくない」という気持ちが大きかったのかもしれない。初手でベストな選択肢を選びたいというか、今で言うタイパ重視というやつかな?

でもこれを続けてた結果、人生全く楽しくなくなった。笑
休日なのに自分の行動が制限されていて、タスクを消化しているような気持ちになって、うんざりしてしまった。

今は事前情報なしに出かけてみたり、やりたいと思ったのであれば心の声に従ってまずはやってみたり…
スケジュールの余白や感情に従って動く自由度を感じられたときはすごく幸せだなと思います。

最初から頭に情報を与えてしまうと、なにを見ても「情報との答え合わせ」になってしまって、自由気ままに空想する……という楽しい時間が失われてしまう。(p.117)

「情報との答え合わせ」この表現がすごくしっくり来た。
特に美術鑑賞が顕著で、もちろんある程度の情報や歴史的背景を知ってると深く楽しめるんだろうけど、何も知らなくても絵を見て自由に感想を言ってみたり、湧いてきた感情を大切にしてみたり。
その繰り返しで感性が磨かれていくんだろうなと思います。


現代における贅沢とは

「五感の拡張こそがラグジュアリー」に書かれていた贅沢についての話。
これもなるほどな〜と思ったのでメモしておきます。

必要十分なだけの生活用品は揃った上で、あえて裁縫をしたり、七輪で魚を焼いたり…そうした心の余裕を「贅沢」と感じている人は多いだろう。「贅沢1.0」が必要以上の高価なものを買ったり、身の丈以上の消費をしたりする「物」の消費なのだとしたら、「贅沢2.0」は、自分の心地よいもの、時間、関係性をしっかり見つけて、それを大切にする「心」の豊かさじゃないんだろうか。(p.155)


本当その通りだな〜。昇進やお金をたくさん稼ぐことより、プライベートの時間があること、心の余裕があることに価値を感じる人は増えていると思う。(もちろん人による)

コロナ禍、円安物価高、デフレといった時代背景もあると思う。今や「丁寧な暮らし」が一つの価値観として当たり前にある中で、ものを消費したり所有する贅沢から、心を豊かにする贅沢にシフトしつつある。この価値観の揺らぎは世界的にも起こっているそう。


環境問題に取り組む


恥ずかしながら「グリーンウォッシュ」という言葉をこの本で初めて知りました。
ものを選ぶとき、何となく環境に良さようなものを選ぶようにしてるけど、もしかしたらそれはグリーンウォッシュの製品なのかもしれない。ちゃんとリサーチした上で選ぶことまでは出来てないな…
「環境に良いことをしたい」と思い、インターネットで調べたり本を読む。分かりやすい情報を得る。しかし、そこには情報操作された知識や、時にグリーンウォッシュの可能性もある。正しい情報を得る・判断するってすごく難しいよね…インターネットリテラシー…

去年、ある本でトゥルーコストという言葉を知りました。「生産者の負担、環境保護、そして素材自体の値段。 これらを全て考慮して、提示する額」という意味だそうです。
私たちがデニムを千円で買える裏側では人権侵害、劣悪な労働環境といった社会問題があるということがその本には書かれていました。
これを知ってから、極端に安い服やファストファッションは利用しなくなりました(ユニクロは好きで買ってしまうけれど…)
消費者の立場として少しでも良い選択をしたいなと思っているし、消費についてはもっと考えていきたいなという今後の課題です。

特に環境にまつわる問題は知らなければ悩まずに済んだかもしれないが、知ってしまった以上、向き合わないことには罪になる。(p.227)

この言葉は重いなあ…… でも心に刻んでおきたいなと思います。

商品をPRして消費を促進させるインフルエンサーの立場だった塩谷さんが、この現状を伝えることが勇気ある行動だし、影響力のある立場だからこそ責任を持ってこういう事実を伝えているんだろうなと思いました。


アンガージュマンというフランス語がある。こ「社会参加。主体的に選択し、責任を持って行動すること」という意味だそうです。
環境問題、フェミニズム、政治思想、社会問題など…この国ではどうしても政治や社会問題に対して意見を言う=意識高い一部の人、思想が強い人。というイメージがあって、発言することは私にはまだ難しいな…でも一人の責任ある大人として無関心ではいけないなとつくづく思う。「和をもって尊しとなす」「みんな同じが正義!」といった学生時代の価値観から抜け出して、自分でしっかり考えて、意見を持てるようになりたいなと思います。

この本の最初の方に「視点の異なる友人となれますように」とある。本を通して塩谷さんとお話しできたような、そんな素敵なエッセイでした。


美しさというギフトは誰からももらえないし、どこに行っても買えやしない。親や家から器や環境は与えられるかもしれないが、与えられてばかりの器では自ら輝きを発しにくい。美しさとはつまり自分だけが自分に与えてあげられる大切なギフトなのだ。(p.58)


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