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紙月ーしげつ

元来私は、下を向いて歩く人間だ。
石畳の境目を避けて歩き、横断歩道の白いところだけを踏む。

すれ違う人も、俯いた視界に相手の靴が映り込むまで気づかない。

20時の暗闇を、足下を確かめながらぽてぽてと歩く。
汚れた靴の先に、昼間の出来事を思い出す。

等間隔に並ぶ街灯の間を、泳ぐように渡って家路を行きながら、
ふと、今日は満月だったかと、上を向く。

見上げた先には明かりの灯るマンションの窓が溢れている。
それぞれの生活が真冬の夜に漏れ出して、しばし夜空を漂って消える。

黒というには軽すぎる紺色の空には、貼り付けたようなまん丸な月が昇ったばかりだった。

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