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津田健次郎写真集『ささやき』感想

全津田健次郎ファンが待望したであろう、2冊目の写真集が2023年10月13日に発売されました。
タイトルは『ささやき』。声優である津田さんらしい声の要素と、写真集内での距離感の近さを一言で表した良いタイトルですね。

さて、今回発売した『ささやき』を読むにあたって、1st写真集である『FLOWING』を改めて読むことにしました。
やはり「比較して見る」ことで、違いと共通性や、新しさが見えてくると思いまして。

以下、完全に「私が勝手に受けた印象」に過ぎませんので、他の方の持つ印象とは乖離があるかも知れませんが、ご容赦ください。


『FLOWING』と40代の津田健次郎

私が津田健次郎さんに沼落ちして、しばらく経った2014年10月に発売された『FLOWING』。

当時の津田さんは今以上に「尖ったことがやりたい」「全力で走り続けたい」のエネルギーが前に出ていたように思います。
今と変わらぬ「ふんわり感」も持ちつつ、「カッコよくあることの美学」を崩さないように、少し張り詰めた緊張感が垣間見えたような気がするのです。
(この「ゆるふわ/ガツガツ」な二面性にどんどん深みにハマったわけです。)

それを体現したかのように、『FLOWING』は尖った、アートな印象の写真集になっていました。
翌年2015年6月に発売された津田健次郎責任編集雑誌『EDGE』も、津田さんの「変わったこと・面白いことがやりたい」が詰まった雑誌でした。
40代の津田さんは折に触れて「ホントは俺、こういうのをやりたいんだ」をアピールしていたように思います。

『FLOWING』発売から9年間の津田健次郎の変化

急流の中、溺れぬように自分の泳ぎをずっと維持し続けるような40代。
それが徐々に河口近くに辿り着くように、「大きな流れに身を任せて、その中で自分らしく泳ごうかな」に変わっていったのではないでしょうか。

ここ数年の仕事量の方が、以前より圧倒的に忙しいはずなのですが……。津田さんの自然体の緩やかな空気は、より濃厚に膨らみを持ったように思います。

そんな良い意味で「力の抜けた」今の津田さんが出す写真集が、今回の『ささやき』というかたちになって世に出たのは、とても自然なことだと思いました。

『FLOWING』と『ささやき』のコンセプトの違い

『FLOWING』はアーティスティックで、ダンディで、エロティックで、アンニュイな写真集

高コントラストで、ざらりとした写真。薄墨色の暮れ時のような、空気が少し冷たくて寂しげな写真たち。全体として「表現者:津田健次郎」を撮っています。
津田さんの「ああ、この人、芯のところに暗くて重たいものがある」感に惹かれた人には必見の写真集です。
残念ながら増刷されていないので、比較的最近にファンになられた方は入手にやや苦労するようです。『ささやき』の売れ行きが好調であれば、この機に乗じて復刻してくれませんかねえ……。

『ささやき』はリラクシーで、カジュアルで、フレンドリーで、メローな写真集

「自然体:津田健次郎」を撮っています。
もちろん写真集ですから、「見せるために創られたもの」であり、普段からあのようなポーズを決め、衣装を着ているわけでもないことは理解しています(笑)。
津田さんがあぶり餅やラーメンを食べたりする姿は、なかなか見たことはないですが、「ああ、こういう時の津田さんは、こういう感じなのかな」って、スッと腹に届いて脳に効く! 全体として「やってんな」感がない。
発売記念イベントのトークショーでは「最初から最後までリラックスしてラフに撮ってもらった」「苦労はなかった」と語っていました。その言葉の通り、気負いのない、「ありのまま」な空気の津田さんがそこに写っていました。

2冊の「一瞬」の扱い方

写真というものは全て「一瞬を切り取るもの」です。

その一瞬を、『FLOWING』は「凝縮して留め置く」写真が多いと感じています。
時という流れの中(Flowing)に居ながら、バシャリバシャリと一瞬をつかまえて、コールドスリープさせるような写真集でした。

対して『ささやき』は、一瞬を「ゆったりと引き延ばす」ような写真が多いですね。
この「一瞬のシークバー」を伸ばしたような画によって、写真の中に前後感が生まれているように思います。
髪や服は揺れそうだし、目は瞬きしそうだし、呼吸の動きを感じそうだし。
屋内では時計のチクタク、屋外では風や川や葉ずれの音が聞こえてきそうです。

例えるなら、『FLOWING』は濃くてぎゅっとした「深煎りコーヒーとガトーショコラ」で、『ささやき』は優しくてふんわりした「紅茶とシフォンケーキ」という感じ?(わかりにくくなったな。)

『ささやき』の感想

さて、津田さんの変化や2冊の比較はここまでにして、純粋に写真集の感想を深掘りしたいと思います。長いです。

写真集全体の画作り

全体を通して、暖色のレンズフィルターをかけたような温かみのある写真が多く、「真っ昼間」よりは「黄昏時〜夜、そして早朝」のような時間感覚が漂います。比較的、人間が活動的ではない時間帯ののんびりまったり感ですね。

その中に、コントラストが穏やかで明るい写真や、ざらつきのある写真、スナップのような写真がアクセントのように挟まっています。

画の中に引き込まれるような断ち切り写真のページ。パシャリと切り取った感の出る余白のあるページ。これらのリズムもいい仕事をしていると感じました。

全144ページの間、ゆったりとしているのにダラダラせず、メリハリの効いた読後感が残ります。

序盤

津田さんが「ちょっと小旅行しようか〜」と言い出して、「一緒に旅をしている」ような写真集ですよね。

でもなんですかね、「津田さんのマイペースな旅行に付いて行って観察している」みたいな感じもするんですよ。
ちゃんと予定を決めて2人で遂行する旅行じゃなくて、車と宿が一緒ではあるけど、「あ、津田さんは次そっちへ行くんですか、いいですね。私も行こうかな」みたいな。たまに「私はこっちに行ってきますから、後で会いましょうねー」の時間がありそうな。

そんで合流する時に遠くに津田さんが見えたり、ささやきが届くような距離まで近づくことがあるわけですよ。

そしてはい、目が合う。こちらが津田さんの旅行を眺めてほくそ笑んでると思ったら、津田さんもこちらを見返してくる。
ふぁあってなる(語彙力)。

中盤

車に乗せてもらったり(もらってない)、あぶり餅を一緒に食べたり(一緒には食べてない)、朝シーンを見せていただいたり、風情のある景色を共有したり、くすぐったい気持ちになりながらページをめくると、表紙にもなっているスーツ姿の津田さんが現れます。

ここのページたちがですね、表紙にもなってはいるのだけれど、本の流れの中としては結構異質です。
「ほら、この人はね、こ〜んなかっこいい役者さんなんだよ! 一緒に旅行ができたとでも思ったかい!?」
「そうでした! ごめんなさい! あ〜かっこいい……」
と再認識させられるんです。ここで。
序盤は催眠術をかけるように一緒に旅行をしてる気分にさせておきながら、「津田健次郎のかっこよさ」という、あまりにもありがたくしんどみのある現実を突きつけてきます。

そうしてページを捲ると、今度は宿の浴衣姿で寝転ぶ津田さんが出てくるんですよ!直前の所業のあとに、こんなけしからんシチュエーション入れてくるんですよ。
もうね、うわーん!ってなる(語彙力)。

で、また旅行が再開されます。
調子乗ってたわ……身の程を忘れないようにしなくちゃ……。と身を引き締めながら。

ほら、かっこいい!かっこいい役者なんだよ!(国立京都国際会館の写真)
ええ〜!プリン!?
ええ〜!ホットケーキ!?頬袋!?
ウワーッ!浴衣だ!ほらあ、かっこいいんだよ!
ウワーッ!セーター!カメラ!かっこいい!
ええ〜!バッティングセンター!?
ええ〜!ラーメン!?
この辺りの緩急の畳み掛けがすごい。
「こ〜んなかっこいい津田健次郎とな、あんたは旅行してるんだ!わかったかい!?」って、今度は逆に言い聞かせてくる。
もうだめだ(語彙力)。

終盤

まったりした写真たちなのに、なぜか心はアップテンポのなか、舞台は任天堂旧本社社屋をリノベーションしたホテル、丸福樓へ。
トドメを刺すのは、タキシード姿の津田さんです。
あ、旅行最後の夜なんだと。ラストにエスコートしてくれるんだと。
ここで完全に「かっこよくてあんたと旅行してる津田健次郎」が完成されました。
だから仕方ないよ。エスコートされた後にディナーを食べた記憶が吹っ飛んでしまっても(そういうシーンがないだけです)。

「待て待て、部屋に向かってる? え、同室? お、おい脱ぎ始めたぞ……」
と、これまで既に寝シーンが2度挟まってるのに焦る
着崩した津田さんがベッドで目を合わせてくる写真で、この旅行の最高潮に至ります。
何ですか!? 「さすがにちょっと疲れたね」とでもささやいてるんですか!? 確かにかっこいいのとかわいいのとえっちくさいのをフォアグラガチョウの如き給餌スピードで三角食べさせられて、確実にMPは削られてますけど!? (逆ギレ)

──そして翌朝。旅の疲れがちょっと残ったような津田さんと車に乗って、この旅は終わります。
日常が戻ってきちゃうな、寂しいな、と感じながら。
最後に津田さんのメッセージを読むと、催眠術が解けるように「ああ、いい写真集だった」と自分の中のエンドロールが始まる。
と、油断しながらページを捲ると、まるで「旅行、楽しかったね」とささやくような津田さんと目が合う!
何これミッドクレジット!? どこまで人の心を乱高下させれば気が済むんですか!? マーベル映画かよ! このやろう! ありがとう!!

そして本当のエンドクレジット、もとい奥付に名を連ねる、写真集制作に携わった皆様に感謝を抱きつつ、カバーをめくってあちゃーとなる。
「旅行中の思い出の写真だよ」みたいな仕込み方、ずるいよ。

したよ。しました。旅行したんです。読者は津田健次郎の写真集を読んだんじゃない。津田健次郎と旅行したんです。
そもそも私は、コンテンツの中に「自分自身」を投影することがうまく出来ないタイプのオタクです。「この世界観に自分がいたら台無しだよ!」と思ってしまいます。(自身を投影することはうまくできないけれど、第三者の立場で登場人物に共感して、多大に萌えることはできます。)
ですから、普段は「デートシチュエーション」などといったコンテンツはこっ恥ずかしくてまともに浴びることが出来ず、一歩後ろに引いた気持ちを保って摂取しています。
そんな私が、この写真集で「津田健次郎と旅行した」という体験を脳に叩き込まれたんです!
仕方がないです。これは。だってそうなってもしょうがないように作られてるんですから。そういう最先端技術の写真集です。観念するしかないです。観念しましょう。

リラクシーだ、自然体だ、とか語っていましたが、読んでいる最中は非常にエモーショナルな体験ができる写真集でした。

好きなところ

やはり食事やバッティングセンターの写真は単純に見ていて嬉しいです。
津田さんの「食べるところ」「運動するところ」はなかなかのレアですので……。
帯にもあるとおりの"見たことのない姿"と"見たかった姿"を「こんなに見せてもらって、いいの?」と言うほど満喫できました。

丸福樓の階段で撮影されているところから4枚分の写真が好きですね。
ライティングが硬質で、構図も垂直水平とらない感じがスナップ的というか……。
あれが穏やかな質感の写真の中に挟まっていることで、かっこよさが際立っててお気に入りです。
(なんだかんだアートっぽい写真も好きなんで……。)
現実的な質感だから、ディナーの記憶を失ってはっと気づいた感じも出てる(笑)。

あと、とにかく布の風合いがいいなと思いました。
手触りや重たさが伝わってきそうでうっとりします。
これらは写真家さんの腕、スタイリストさんの衣装チョイス、編集技術、印刷技術もろもろの素晴らしさを感じます。

おわりに:『ささやき』を作ってくれてありがとう

よくぞ長々とここまで読みましたね?
すみません、ありがとうございます……!

最後に、『ささやき』を制作してくださった関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
津田さんにお声をかけてくださって、津田健次郎ファンたちの救世主です。
津田さんも素敵なお姿をたくさん見せてくださり、本当にありがとうございます。9年待った甲斐がありました。
お次は還暦記念写真集、待ってます。
いや、その前に2・3冊出してくれてもいいんですよ。

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