3年半付き合った彼氏と別れた話③終

それからはいつも
「どうせ別れるけど」という
枕詞をつけて付き合っていた感じで。

どうせ別れるけど

毎日LINEして
毎日電話して
飲みに行って
泊まりに行く度に
セックスして
を繰り返していた。

でも別れの日はまだ
決まっていなくて
別れよっか、という
彼の言葉には
本当は別れたくない、という
意味が含まれていた事は
もちろんわかっている。

私は3ヶ月後には渡航が
決まっているので
できれば早く別れて
冷却期間が1日でも長くあればと
思っていた。

それでも別れる日は
この日にしようなんて
自分からはどうしても
言えなかった。

お互いの顔色を伺いながら
過ごしていくうちに
あっという間に4月になって
桜が咲き始めた。

もうそろそろ言わないと、
という私の焦りは
近所の桜の木が
満開になるにつれ
大きくなっていく。

木曜日。
会社帰りにたまたま
同僚とコンビニで
お酒を買って飲んだ。
たまに仕事帰りに繁華街で
立ち飲みをする事がある。

結局はお酒を借りないと
何もできない。
子供の頃はお酒なんてなくても
自分の気持ちを素直に
伝える事ができていたのに。

成人して5年が経過した。
お酒がないと素直に
なれなくなってきた。

大人になるってなんだろう。

完全に酒に酔った勢い。

その日の夜の電話で

明日で最後にしよっか

と言ってしまった。

いやだ、別れたくないと
言ってほしくなかった訳
じゃないけど

明日で最後?
んー、いいよ、わかった。

と彼は言って電話を切った。

その夜は何故かすっきりした。
やっと一つ重い荷がおりた気がした。
気がした、だけ。

そして、金曜日。
付き合ってから
ぴったり3年5ヶ月。

そういえば付き合って
2年半過ぎたあたりから
記念日も意識して
いなかったなと実感する。

その日は彼からの
連絡は全くなく
私も、仕事終わったよ
以外の連絡をする事は
なかった。

最後の日まで自転車で
駅まで迎えに来てくれた。

彼の最寄り駅から家までは
歩いて12.3分くらい。

春夏秋冬
彼の家に行く度に
色々な話をして

冬は寒がりな私を
気遣って
ダウンを余分に
持ってきてくれた。

途中にある団地の隙間から
夕陽や月が見えた時は
もっと綺麗に見える丘や階段を
登って空を見たりした。

そんな2人の思い出が
いっぱい詰まった道も
もう今日でおしまい。

家に帰ってから彼は
疲れたを口実にして
すぐにシャワーを浴びて
ベッドに入ってしまった。

私はBGM代わりに
テレビをつけ
スーパーで買った
夜ご飯を貪りながら
チャミスルを2瓶
1人で飲んで
滅多に吸わない
アイコスをその時は
連続で3本吸いながら
同期とLINEをしていた。

あ、そういえば
わたし今日取引先から
人生で聞いた事があるか
ないかくらいの大声で
怒鳴られたんだった。
それを同期にネタとして
報告している所だった。

でもそんな事
どうでもよかった。

私が忘れたいのは
取引先の変な人の事
なんかではなく
目の前のベッドで
寝ようとしている
人のことである。

チャミスル効果もあり
まあまあ酔った。
そのあとはいつも通り
ヤッた。

そして朝が来た。
朝ももう一回セックスした。
もうこの人に抱かれる事は
ないのかなと変な事を
考えながら。

彼は学校があるから
11時頃に家を出た。

出かける支度する彼を
ベッドで寝転がりながら
視力が0.1にも満たない
目で必死に追った。

そして、
彼が家を出る前に

3年間楽しかったよ。
お互い頑張ろうね。

と言ってハグをした。

また少し泣いてしまった。

彼がいなくなった数分後、
私は荷物をまとめて家を出た。

駅までの帰り道、
彼とよく通った公園に
桜が沢山咲いていた。

満開というよりかは
もう散り始めてしまっていたけど
桜の絨毯が美しかった。

付き合った時は
21歳と23歳。

あの時は世の中を
知り尽くしているような
感じがして
なんでもできる気がしたし
実際なんでもできた。

別れた時は
25歳と26歳。

彼は博士課程に
進学する事になって
まだ学生のままだけど
見た目も性格もなんとなく
昔と変わったところもある。

もちろん彼だけはない。
私も社会人になり
環境も価値観も
学生の頃とは違う。

「社会人になればわかるよ」

とひと足先に
社会人になっていった
大学の先輩たちが
口を揃えて言っていたが
今はその意味が
うまく説明はできないけど
よく理解できる。

まだまだ私の年齢は
世間的には若い。

でも、もしかしたら
もうあの眩しかった頃には
戻れないのかもしれないと
悟り始めては悲しくなるけど。

今はまだ全然辛い。

本当にこれで良かったのかな
彼に勝る人と出会えるのかな
それともずっと独り身なのかな

と考え出すと止まらなくなるが
正解がない事くらいはわかっている。

でも、今回の恋愛は
私が人生の中で初めて

こんなに人と長く付き合い
こんなに人と真剣に向き合い
こんなに人のことを好きになり

こんなに些細だけど
何よりも輝いている
思い出を作る事ができた。

だから、
だからきっと大丈夫。

かなり時間はかかりそうだけど
幸せな思い出として
前を向いて
ゆっくり消化していこうと思う。

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