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続ける!毎日掌編小説。『水』

 痛かったのを覚えている。そうだ、私は殺された。ただただ深い海の底を見つめ思い出す。私は周りの水と一体化していた。

 殺されるのは時間の問題だった。学校に行くのが怖かった。行けば肌に印を押される。トイレに閉じ込められて水をかけられた。恥ずかしくて、体は次第に溶けていくから、私が私でなくなっていくのを感じた。
「お前はゴミだ」
 だからなんだ。そう思えるほど、それを腐るほど聞いた。耳がダメになるほどに。一番私がよく知ってる。私は今にもジュっと消えてしまいそうな家族のために何もしてあげられないし、何かしてあげようも、もう思わなくなった。

 私が一番理解私のダメなところを理解している。だから大っ嫌いだった。
 あなたたちはあまりにも私には熱すぎて、私を保つことができなかった。

 家の中が怖かった。いつも真っ暗な家の中はすごく冷たかった。だから私を保ってくれた。でも社会の升に入らなくなってしまった。
 熱々にあっためられたヤカンが毎週二日、私を無理やり温めた。

 帰るのが嫌になった私は公園で時間を潰す。外は雪が降っていて、手と膝は真っ赤に染まっていた。
 
 私にはぴったりだ。無能で役立たずだからここにしかいられない。
「消えて」
 ついに、この世界にいる理由がなくなった。

 ライターを手に森に入る。森の奥には昔小さい頃にお父さんと作ったツリーハウスがあった。
 指先が痺れて今にも落ちてしまいそうだったが、痛みを殺して登った。
 備え付けのロープを吊るして、台に登った。

 本当は。
「死にたくない!」「生きたいよ!」「殺さないで!」
 頼りない、弱々しい本音が心の中を渦巻く。
 私が私を殺す。ライターは思い出のツリーハウスを燃やした。そして私は無事この世から泡になって消えてなくなった。

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