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修繕

昔に比べて「良いものを長く使いたい」と思うようになり、買い物や新しいものを迎え入れることに慎重になったここ数年。

それでも大事に使っていても破れたり汚れてしまった洋服や布製品だけはキッパリと手放すようにしていた。

理由は簡単、裁縫スキルが絶望的であるからだ。

手先の器用な母と祖母を持つと、同じく手芸等が得意になるか不器用になると思っていて、わたしは残念ながら後者だと思う。
もちろん、上達すべくコツコツ技術を磨いていけばいいのだけど、併せてかなりの飽き性ということもあり続いた試しがなかった。

家の物の断捨離を進めている中で日の目を見なくなってしまった刺繍道具一式(こちらも1ヶ月ほど熱中し、箪笥の肥やしになっていた)をチラ見してはどうしようか悩んでいた時、オランダに住む高校時代の友人が東京でワークショップをするとの情報を小耳に挟んだ。

彼女は現在オランダでビジブルメンディング(visible mending)や研究を行っており、今回のワークショップ内容も修繕が必要なアイテムを各自持ち寄ってメンディングを体験するというものだった。

「友達に推しにも会えるうちに会っておけ」スタンスなので、会えるのであれば参加しようと思い立った。
こういう時に大事なのはきっと裁縫スキルではなく勢いだと自分に言い聞かせ、共通の友達を誘い颯爽と申し込みを済ませる。

会場が馬喰町の近くのスタジオのため、朝ご飯を食べてから行こうと会場付近のカフェで一緒に行く友達と待ち合わせする約束をした。

当日はアラームより5秒前に起きることに成功したのも束の間、目を覚ました瞬間に襲ってきた花粉に白目を剥きながら準備をし家を出た。

2年ほど前から目星は付けていたものの、実際に足を運ぶタイミングを失っていたお目当てのカフェは、馬喰町のビル街の中にオアシスにように佇んでいる。
外国人が多く店員さんはみんな英語がペラペラで、異国の風が吹いてきそう。
日本橋付近はインターナショナルなんだという新しい発見だった。

ラテと自家製ハムのオープンサンドを頼む。目に入ってしまったので美味しそうなケーキも。
八朔ジャムとホワイトチョコクリームのヴィクトリアケーキが美味しくないわけがないんだよな。

焼き菓子の魅力は計り知れない
まだ飲めないブラックコーヒー

テラス席で周りの人を観察しながら、晴れた日に友達と食べる朝ごはんの美味しさたるや…
最近の睡眠不足は深刻だがこんなにも気持ちの良い時間が過ごせるならちゃんと寝てちゃんと起きよう、と静かに決心する。


ワークショップの会場には6年前に会った時と相変わらずの友人と、当日の参加者が数名。
久しぶりに会う嬉しさでソワソワしてしまった。

まずは席にあった破れていたり穴が空いたりしている葉っぱを思いのままに修繕してみるというアクティビティでアイスブレイクをする。
テープを貼ったり糸を通したり、直し方はなんだっていいという自由さが心地良い。

私と友達の葉っぱ
ワクワクが詰まったワークショップ開始前
会場の雰囲気がとっても好み


着物や生地の端切れから、自分の持ち込んだアイテムに当てる布を選ぶ。
わたしは修繕必要なものを持っておらず無地のトートバッグを持ち込んだため、当て布ではなく刺繍を加えることにした。

友人が持ち込んだトートバッグには、小さなワインのステインだったものが全域に広がってしまったシミがあったが、色や質感様々な布や糸を当てているとなんだかワクワクする気持ちが芽生えた。

端切れから選んでいく工程も楽しい


普段だったら少し絶望するであろう汚れなのに、修繕してまた長く使えると思うと全く違う心持ちに。
なみ縫い、かがり縫い、まつり縫いさえ覚えてしまえばできるというもんだから、始めて継続するハードルがぐっと下がった。
3時間あったワークショップは集中していたらあっという間に終了の時間を迎え、また来年頃に会えることを願って帰路に着いた。

パッチの裏はこんな感じ

鉄は熱いうちに打ての言葉通り、熱が冷めやらぬうちにトートバッグの刺繍を終わらせようと思いユザワヤに寄り道して帰る。
危うく手放すところだった刺繍道具を広げ、無心でチクチクと針を刺した。
一点に集中する作業は浄化作用があるな〜と考えて進めていたら、いつの間にか外は暗くなっており刺繍の模様も出来上がっていた。

わちゃわちゃでカラフルな模様

0から1を生み出すのが苦手なので、まずはPinterestから拝借したデザインを真似て作ってみた刺繍。

うん、かわいいしどこかで売ってたら多分手に取ってる。
フレンチノットもところどころ「おや…?」と思うところはあるけれど、遠くから見れば問題なし。
無地な頃よりも既に愛着が湧いて、出番が増えることも間違いなし。

いくつになっても新しい経験は楽しい。それが友達と一緒だったらもっといいし、今回は教えてくれた人が友人だったからもう最高。
こういう人たちが周りにいる自分は強運の持ち主だと常々思っている。

新しいスキルを身に付けた昨日の自分は、おとといよりちょっと強い。
これからも物を大切に扱い、大事に使っていくことに何の変わりもないが、
汚れや破れに胸を弾ませる気持ちが装備に加わった。

最高じゃないか。

Studio A-lot-of-things
Emma Huffman (Designer, Mender and Translator)

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