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サントリーニにて

サントリーニ島にきた

「もうここで働くのはこのシーズンで最後にしたい」

「いい天気ですね」への、運転手のディミトリのファーストレスポンスがこれだった。

アテネ出身で、サントリーニ島で働き始めて10年目。ずっと運転手をやってきているが、もう疲れたらしい。
そこに悲壮感や怒り?は感じられず、この島の天気のようにあっけらかんとしたものだった。

「天気は暑いし、渋滞がひどいもんだ」ディミトリは続ける。「休みなしにずっと働いている」

おそらく私の前提知識によれば、サントリーニ島をはじめとしたギリシャのリゾート島では、冬になるとパタリと観光客が途絶えるため、冬は基本的に仕事はなくまあまあ暇なはず。なので年間休暇は最低180日くらいあると思うのだが、まあ人の感じ方は人それぞれである。

ディミトリ。肩幅がある

36時間の末に

そんなこんなで、無事にギリシャのサントリーニ島にたどり着いた。飛行機代をケチった賢明に旅程を調整した結果、成田-台湾-ミュンヘン-サントリーニと、2回乗り換えの旅になり、日本の家を出て約36時間かかった。
でも割と体験はよく、ANAに日頃から納税しているお陰で各地のラウンジ堪能おじさん体験ができたし、相方は「+2カ国いけてオトク」くらいのノリだった。事実、台湾とミュンヘンで6時間ほど乗り換えがあり、台湾では充実した空港のフードコートにて小籠包と肉の麺を食らい、ミュンヘンでは街まで出て、やたら派手な市庁舎の前でピースしたり、朝9時から現地のオッサンに混じってビールを飲んだ。ちなみにミュンヘンの気温は18度と、日本の−20度くらいだったが、長袖と呼ばれる類のものは全て預けまくった思慮浅い私は、半袖短パンサンダルでピースしたりビールを飲んでいて、ダウンジャケットのドイツ人sに4度見くらいされ、変な/あるいは底なしに陽気な日本人(アジア人)という爪痕を残すなどしていた。

全広場で一番薄着だった

出たとこ勝負

そう、サントリーニ島である。

私と相方は、いわゆるリゾート地にいくことがあまり多くない。今回の欧州旅も、セルビアでの友人の結婚式に行く、という目的があり、じゃあ他はどこ行こうかとGoogle mapを引っ張り出してきて、周辺の国をざっと見て、行ったこと無い国行きたかったので北マケドニア、そして地図をスクロールするとちょい下に出てきたサントリーニ島に行こうということになった。正直ヨーロッパは各国間の飛行機がかなりあるので、スペインとかポルトガルに行っても良かったのだが、せっかく東欧・南欧よりに行くのだから近くに行ってみようということで選定をした。

例によって出国前は仕事にかまけていて、飛行機・ホテル以外のリサーチはゼロで臨んだのだが、宿泊先のヴィラの管理をしているアンドレから1週間前に来ていた「ところで到着後の移動はどうするの?」メッセージに離陸前のミュンヘンで初めて対峙した。そこで初めて、宿泊先がそこそこ主要地域から遠く、公共交通機関は1時間に1本の満員のバスしかないことがわかり、そこからwhatsappでアンドレに鬼のようにメッセージし、前述の、そろそろ辞めたい運転手ディミトリが迎えに来てくれるに至ったのである。ハネムーンで浮かれてサントリーニ島へ行く紳士淑女へは、ぜひ事前に移動を考慮に入れた宿手配をするか、アンドレに鬼電することをおすすめしたい。

360度バケーション

観光地は「写真のほうが綺麗だったな..」とコソッと思うことも少なくないのだが、サントリーニに関しては、素直にとても美しかった。

at Oia
こういうレストランが無限にある

崖づたいにホテルがびっしりあるので、景色の取り合いということはなく、どこから見ても映えるので平和だ。どのホテルも壁に突き出した場所にソファなりベッドがあり、そして必ずジャグジーがある(ヨーロッパの人って本当にジャグジー好きだよね)。構造上、観光客から各ホテルの人がくつろいでいる姿は丸見えなのだが、誰も気にしている様子はない。「みんなバケーションモードだよね」というコンセンサスがある。

マネキンも楽しそう

レオニダス登場

昼ごはんは陽気な兄ちゃんに客引きされた店に入った。正直レストランはどこもメニューが同じであるように見え、どこも景色が良いので、人々はどうやってこの無数の選択肢の中からどこに入るのかを決めるのだろうと不思議に思う。ギリシャの名物であるという「ムサカ」とシーフードを頼んだ。陽気な兄ちゃん、レオニダス(仮)がやたらと頼めと言ってきたものを素直に頼んだ。あまり深く内容を理解せずに頼んだので、まさか茄子ばかりの食べ物とは思わなかったが、リゾート補正をかけて誤魔化せば美味しかったし(茄子キライ)、シーフードも美味しかった。レオニダスは3秒に1回くらい大げさに”best”という単語を使ってメニューの紹介をしてくれるのだが、bestなビールとbestなワインは普通だった。

またレオニダスはbest推しに飽き足らず、相方に写真を撮ってもらっていた私の横に入ってきて、「今日は良い日本人と出会った、と孫の代まで言い伝えるから」とGoogle mapのレビューを書いてくれと言う。そのまま携帯をとられてレビュー投稿画面までいって「4つ星?5つ星?」と聞くのだがこの状況で4つ星を言える強いハートの人はいるのだろうか(普通に美味しかったので5で良いのだけど)。あんなに引きつった笑顔でインターネットに写真を晒したのは初めてである。

魚も多いが、カリフラワーもびっくりするくらい多い
例の。

カゼvsバエ

サントリーニははっきりしてて良い。目に入るほぼ100%の人は観光客と、その観光客客向けにサービスを提供している現地の人である。左を見ても右を見てもバイブスは完全にバケーションであり、皆一様に浮かれている。白い家、カラフルな扉、青い海。練り歩く観光客としても、どこを撮っても映える。

天敵は風だ。島なので風がとても強く吹いており、自撮り教の観光客たちの髪を拭き上げるので、がどこもかしこも風と映えの永遠の戦いをしている。

前述のレオニダスに風が強いんだね、と聞くと「just today」と言っていたが多分嘘だと思う。

風vs映え

辺境バンザイ

サントリーニ島は一周18kmx5kmほどの小さい島で、車で1周しても1時間強くらい。公共交通機関は公共バスが島を回ってるくらい。これは日本の長距離バスのような感じの車なので快適なのだが、とにかく混んでる。私のように、ペーパードライバーかつよく免許証をなくし、免許ナイヨ〜と踊ってたらそもそも失効してたというテヘペロさん以外は、(国際)免許証を持っていて、車ないしバギーかスクーターを借りて島を移動することをおすすめする。

だいたいの人は一番の中心地のFIRA(フィラ)もしくはOIA (イア)に滞在することが通例だが、ヴィラの見た目だけで他はノールックで決めた私達は、ワイン畑の中にポツンと立つヴィラに泊まった。車があれば特段問題はないが、中心地に行くには、いつ来るかわからないローカルバスを探し、手降って乗せてもらわないいけないので大変だった。それでも、周りに阻むものはないので朝日も夕焼けも存分に見ることができ、とても良かった。周りにレストランも店もないので、ある種諦めがついてゆっくりできた気もする。

隣に住んでるオバチャンがくれたメシと夕焼け

人間の営みはシンプルだ。本来、朝日で目覚め、夕焼けが終われば床につく。それさえあれば、何もいらないんだぜ?

と、ヴィラのテレビでYoutube流しながら、ばっちり5Gの携帯でインスタ投稿しながら思うなどするのであった。

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