国の南

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国の南

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最近の記事

決心したのでしょう、あの春、あの窓口で。 「燃やしていいよ」と本気で言った。 堅く重い私の春に、無邪気だったのはあなただけでした。軽快な口を、私ばかりか、窓口の女にも振りかざしていましたね。 それが愛おしかった。 悲しかった。 ながい頭痛のあとで、 あなたは法律家になりました。 軽い口ぶりの奥の秘密を、あなたはひとり暴いていたのですね。 握手の度に持ち去られてゆくあなたの空を、 私はひとつひとつ眺めていました。 持ち去った人の中には、柔らかな髭を生やした者もありまし

    • この旅を最後に猫やめる

      近況 二月の頭から神奈川に住む先輩の部屋に居候させてもらって、約一ヶ月が経ちました。先輩の部屋には沢山の漫画と本と画集と写真と資料と…先輩の絵やメモ、コーヒーとたばことオーディオ機器、LPにCD、そして植物があって、ヘビのぬいぐるみもいます。朝にはちょうどいい明るさの光が差し、夜は暖灯でも視覚は賑やかで素敵なお部屋です。先輩の恋人も同居されていて、よく夕ご飯を作ってくれます。焼き鮭は最高だった…辛いことがあった日もいつも通りそばにいてくれます。 二月を振り返ると、最初の一週

      • お気をつけて

        盟友がいる。愛知の大学で出会って、一時期寝食を共にして、それで最近の数ヶ月は別の場所でお互い動いていた。それで雨の午後に、久しぶりに愛知のコメダで会うことになって、東京と愛知とをお互いが行き来していたから、随分会えず仕舞いで、それで再会にはドキドキしていた。そこは私が1人の時に愛用していた店舗だったけど、彼もそうだったようで、大学にある「2人のいつものベンチ」に集まる時とは別の感触があった。いつものベンチというのは、大学の講義棟の下にある軽いスチール椅子のことで、座ると大学の

        • お絵かき星団のきづきと祝福

          十四世紀、僕らお絵かき星団がイタリアに滞在していた頃の話だけれど、その頃の僕らといえば揃いも揃って顔がやつれていた。 その頃のイタリアには、もう今じゃ考えられないけれど、自らのハートを守りなさい、という共通の教えがあって…それがそろりと、絵を描く僕らの腕を凝り固めていたようだった。 お絵かき星団は、もとより団体。それも、寝て起きては遊びに出かけようとする性格の仲間たちで、ママに叱られてパパに笑われては伸び伸びしてた。どでかいゾウの背中でいっぱいの絵を描いた。 だから、震える筆

          美しい私たちへ

          僕とあの子は全然似ていない。 でも僕はあの子にキスをするために、あの子は、僕にキスをする日のために生きている。 僕ら2人にはそれが本当に、なにより美しく輝いてみえるのだけど、でも僕達はみんなでこの時代に生きている。だからみんなでその美しさを知りたいと思う。僕とあの子は、誰も見捨てずに唄う彼らに憧れてきた。だから、だからシーツにベッタリと背中の赤い痕がついていた朝も、有り合わせで漂白していく空洞の昼も、音楽が玄関を叩き続ける今も、殺戮の国の土を舐めて絵を描く。僕はTwitter

          美しい私たちへ

          家に帰りたくない時なんて大体マックにいるし、 泣きそうな時には早く走るよ どこか滞在するならまず24時間やってる店を調べるよ スマホと現金頼りになんない! これ沖縄旅行の教訓でしょ チョコと牛乳 チーズとトマト お米は人と食べたいよ、やっぱり人の作るご飯が好きだよ 少し 年をとったかな。 年越しおばーちゃんの唐揚げ食べたいなあ ホントウだったら帰りたい いつだって帰りたい いつだって帰りたい いつだって隙間から足、引っぱって欲しいよ、でも、今はあの子の悲しみの1番近くで眠

          initial taste

          足の裏は彼にとって最後のゴールだった。天井がなければ彼はどこまでも伸びる。行く土地行く土地で盛んな果物を食べ、旬を追い、犬を愛し、時に女を愛しながら旅をした。やがて彼は、生まれる前に母親によって蒔かれた伏線をもうほとんど全て回収したこと、その期待外れの虚無に気がついた。 足へと続く天井は岩盤のようだと思っていたが、近づいてみて初めて、そこに境界など無かったことを知る。彼にはこの発見が、これまで自分が十分豊かに伸びてきたという証明に思えた。 いざ土踏まずが自らの頭に触れると、気

          initial taste

          paralleling 🧑🏼‍🦳🧑🏼‍🦰 line

          川沿いのイタリアンで、私たちは大きなソファに腰掛け料理を待っていた。 彼は聞いた。 「Have you ever had a stress-free night like this and wanted to die?」 (こんなノンストレスの夜に、死にたくなったことはある?) そのイタリアンのお店は私の故郷からずっと離れた所にある。その距離と近くに聞こえるさざ波が夏のバカンスを作っていた。私は海老や貝、何やらよく分からぬ海鮮の混ざったパスタを巻きながら、 「あるよ。けど、

          paralleling 🧑🏼‍🦳🧑🏼‍🦰 line

          そうして

          プセさんという人の文章を読んで、白紙の画面が恋しくなりました。母国語を中国語とする友達といつか一緒にグリーンロードで帰った夜のことだけど、日本語が達者な彼が「恋しい」という日本語を訳せず、一緒に意味を調べたことがあります。彼はその言葉の意味をみて、「soファッキングsweet!」とか感想を言っていたけど、私にはそんなに強い言葉ではないような気がして、その時はただ微笑むばかりでした。ああ、その彼は今、愛する人を迎えに行き、その人の旅の成果を、手を膝に置いて聴いている頃でしょう。

          そうして

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          18 初期佐藤千亜妃のリリック 21 恋 23 「人にさ 週末の私のこと知られるのめっちゃ嫌やねん 私の事知った気になってさ、私のお世話とかしちゃってさ、承認欲求みたいなん満たされるのほんとに嫌やの なのにさ無干渉なのはそれはそれで悲しくてさ、そういう夜は噎せながらきな粉食べ続けるしかないねんな」 本当は密かに7日間の拠り所にしていた週末の待ち合わせはあなたのせいで! 人に時間を把握されるの死ぬほど嫌だな 24 頭のうえで霧吹きをかけると数秒花の気分になれます 洗濯

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          あなたはそのとき、実は思っていた、これは恥ずべき行為だと。相手の人間性を、逃げ道も守る手段もなく貶める行為。でも、あなたが口にできたのは「先輩、この人の服、汚れちゃいましたよ」 それだけだった。 何年も経ってからあなたは気がついた。 あれが、他人を締め出して、自分たちはなにひとつ変化しないことを望む、単なる集団的自己防衛のメカニズムに過ぎなかったことを。 だがそれは未来のことだ。 今わたしたちは、未来を使って、過去を語っている。成熟を利用して、無垢について語っている。 わた