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目の前の人を変える方法。

孤独な人を好きになったことがある。

他人に対して閉じている、というわけではないけれど、
いつもどこか、
「誰も自分のことをわかってくれない。」
「誰も自分のことを最後までは愛し抜いてくれない。」
というような心を奥の方で抱えていた。

そんなふうな心を抱えているものだから、
彼の世界は敵だらけだった。

いつも周りは自分を利用しようとしたり、
陥れようとしたり、足を引っ張ろうとしていると思っていた。
誰かに恋をしても、どうせ叶わないとすぐに諦めてしまっていた。

誰かを信じたり、誰かの親切を信じたり、
誰かの愛を信じたりすることは、
彼にとってはとても怖いことだった。

わたしはそんな彼のことが好きだったけれど、
どれだけ明るいところに引っ張り出しても、またすぐに『疑う』世界に戻ってしまう。

わたしは
「彼はもぐらみたいだなぁ」と思っていた。

もぐらは、地表では暮らせない。
明るすぎて死んでしまうのだそうだ。

彼はすぐに地中に戻る。

「変わりたい」と言いながら、何も変えないでいた。
いつも誰かの批判をして、『自分を認めて』と叫んでいた。

変えようとすると、体の具合が悪くなったり、仕事でミスをしたりして、
「ほらね、やっぱり自分はダメだ」とまた暗いところに帰って行った。

体の具合が悪くなるのも、
仕事でミスをするのも、
『変わりたくない』という彼の無意識が起こしていると思ったけれど、
それを伝えることはしなかった。

伝えたところで、余計に抵抗が生まれるだけだというのもまたわかっていた。

わたしは彼を見て苦しそうだなぁって思っていたけど、彼を変えようとは思わなかった。


『今の自分をありのまま受け入れたときに
変化することができる』
と、カールロジャーズ(アメリカの心理学者)が言っていて。


だけど、自分でありのままの自分を受け入れることってなかなか難しい。
だから誰かが自分のことを受け入れてくれることを通して、
自分のことを受け入れていけるようになる。

そして、受け入れられたときに変わることができるようになる。

わたしが彼に言い続けたのは、
「そのままでいい。」ということだけだった。


今のわたしは、もう彼に恋してはいないけれど、
そのままでいいと言い続けてよかったんだろうなって思っている。

彼を変えたのはわたしではないけれど、
今、彼は笑っている。
たぶん新しい恋でもしているのだろう。



目の前の人を変えたいと思ってしまうことは、よくあることだ。

「もう少しこうしてくれたら」
「もっとこうあってくれたら」
と望んでしまうこともあるし、

「もっとこうしたらいいのに」とか
「もっとこうやったら幸せになれるのに」などと思って余計なことを言ってしまうことだってある。

だけど、人は変わらない。

自分で変わるための方法はたくさんあるし、
誰かを知らずのうちに動かす方法だってたくさんあるけれど、

ありのままを受け入れられる経験は、
本人は無自覚だと思うけれど
その人を根っこから癒して、変わる勇気を沸き起こさせるのだと思う。


目の前の人を変えたいと思ってしまうことは、よくある。
変えようとしないことが、目の前の人を変える方法。

愛をこめて
elly

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