一応普段は仕事してるんですけどね、わたし

つい先日、お客さんのお宅に集金に伺った際に、どうぞ上がってください、ということになりまして

慣れない正座をして待っていたら、お客さんが奥からクッキー缶と冷たいお茶を持ってお見えになったんですよ

あぁ、集金ついでに世間話なんかしながら縫い物でもするんだな、なんて思っていたらね

なんと開けた缶の中にびっしりとクッキーが並んでいたんですよ

これには私たいそうびっくりしましてね
あまりの出来事に冷静でいられなかったので記憶が定かではないんですが、びっくりしすぎてほとんどひっくり返っていたと思います

そこからはもう記憶が曖昧で、次に気がついたときには辺りはもう夕暮れ時で、革靴は泥だらけ、集金したお金の入った封筒を握りしめたまま汗だくで知らない空き地の真ん中に立っていました
爪が手のひらに食い込んで少し血が出ていたと思います

私はあの日、クッキー缶に裁縫道具以外のものが入っているのを初めて見ました

お客さんは裁縫道具を買ってきて、中の裁縫道具を全部出し、別で買ってきたクッキーをわざわざその缶に詰め替えたんでしょうか、それ以外にないですよね

でも一体なぜそんなことを
今となっては誰にもその理由はわからないでしょう

クッキー缶にクッキーが入っているだなんて、事実は小説より奇なりとはよく言ったものですね

みなさんにこの事の顛末をお話しできて、少し気持ちが落ち着いてきた気がします

ありがとうございました