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シネ・ヌーヴォの歴史⑦最終回


「シネ・ヌーヴォ20周年プロジェクト」

2017年の20周年を前にした2016年に「シネ・ヌーヴォ20周年プロジェクト」として多くのご支援をいただき、3度目となる大きな改装工事を行うことができました。行った工事は、場内床面の完全リニューアル、同時に天井面の修復も行い、開館時の清潔感あふれるアート空間が甦りました。その他、トイレの改装工事、特にまだ和式のままだった男性トイレの洋式化を行いました。さらに、入り口看板取り替え、玄関周りのオブジェ補強工事など、クラウドファンディングでご支援いただいた資金をもとに、総額500万円以上にものぼる工事を無事に行うことができました。その際の、出資者の皆さまの名前を記した銅板を、感謝の意を込めて館内入り口に設置いたしました。皆さまのご支援・ご協力に心から感謝申し上げる次第です。

コロナ禍、そして現在

2020年、前年からの「市川雷蔵祭」「川島雄三 乱調の美学」が好評、2月の「追悼・八千草薫」も好動員で、良いスタートを切った年でしたが、2月末から始まった名物シリーズ「フィルム・ノワールの世界 vol.5」は当初好調でしたが、コロナ・ウイルス感染が全世界に広がり始めた3月になると急失速、3月開催の「渡哲也映画祭」に至っては完全にコロナ禍と重なり、入場者が半減、そして4月に緊急事態宣言が発令され、全国の映画館と同じく4/9(木)から5/31(日)まで、実に2カ月近くもの休館を余儀なくされました。
53日間という未曾有の長期休館となり、閉館が目の前に迫る危機感と、先が見えない不安とに向き合う日々でした。このまま開館することはないのではという不安感と、長期休館に耐えうるよう、資金不足からの脱却を図って、クラウドファンディングで皆さまからのご支援を再度お願いしようかと思いましたが、4年前にお願いしたばかりで、そのリターンの最中であったこと、そしてこの危機は当館だけのものではなく他館も同様であるとの思いから、関西12館と連携した「Save our local cinemasプロジェクト」(関西劇場応援Tシャツ販売)、全国で始まった「ミニシアター・エイド基金」に連動する形で、共に生き残れるよう行動を共にすることといたしました。また緊急融資を政府系金融機関にお願いし、政府の「持続化給付金」、大阪府からの「休業補償」を得て、休館をしのぐことができました。国から各種支払いの「支払い猶予」の措置もいただき、まずは存続することが何より大事との思いから、それをお願いすることにしたのですが、そのことが後々大きな課題となるとは思ってもみませんでした。
しかしながら、この間、映画を愛する多くの方々の励ましとご支援をいただいたおかげで、前向きに再開に向けて取り組むことができましたこと、関わってくださったすべての皆さまに感謝申し上げます。
 
休館した53日間で、過去20数年間の館内すべての大掃除をいたしました。4年前に場内リニューアルをしたとはいえ、感染対策のためにさらに座席の洗浄など細かな清掃も行い、新たに空気清浄機を購入し、場内に2台設置するなど、さまざまな感染予防対策を実施しました。また、たまりにたまった資料の整理、事務所の整理などを行い、アッという間に日々が過ぎ去っていきました。休館中もスタッフ全員に通常通り給料全額を支払うことができたのも大きな喜びでした。また、2019年よりチケット発券機をインターネットからも購入できるようリニューアルしていましたが、これを機に「座席指定制」を導入。入場時の混雑を避けることが狙いでしたが、お客さまから大変ご好評をいただくことになりました。座席を1席ずつ空けた隔席としてスタートし、その後は2列だけを隔席としていましたが、この2023年7月からは全席開放することとなりました。


休館を終えた2020年6月1日、待ちに待った再開は、フレディ・M・ムーラー3作品上映で始まりました。4月の上映が延期となっていた企画でしたが、映画を上映できる喜びをスタッフ一同、かみしめる思いでの再スタートでした。続いて延期となっていた「若尾文子映画祭」が大好評。さらに7/25からの恒例の夏の日本映画大回顧展は、「没後50年 映画監督・内田吐夢」を開催、上映可能な25本を一挙上映しました。かつてない規模の巨匠・内田吐夢監督の大特集に大きな反響をいただきました。まだまだコロナ禍が続く中、多くの皆さまのご来場に感激するとともに、大きな光明を見た思いでした。
 
しかし、全体的には厳しいものがありました。結局、2カ月近く休館した2020年度は前年の70パーセントもの観客減、2021年度は80パーセント、そして昨年2022年度は92パーセントと少しずつ減少額が減り回復していますが、それまでも赤字基調の当館では利益など出るはずもありません。また、この2020年度の「支払い猶予」の金額数百万円の取り立てが翌年から始まり、その税額・保険金などの金額は毎年ほぼ同額が発生することから、すなわち翌年には倍額の納付を要請されるようになりました。コロナ禍からの回復途上にあっても、たちまち倍額ではそれは無理というものです。分割納付などで、ギリギリの支払いを行ってきましたが、非常に厳しい現状となっています。

「シネ・ヌーヴォFROM NOW ONプロジェクト2023」

コロナ禍、デジタル映写機の買い替えなどによる経営状態の悪化とミニシアターへの逆風が吹く中、今回「シネ・ヌーヴォFROM NOW ONプロジェクト2023」を7月15日から始めさせていただきました。
8月31日までの募集期間の残り1週間を切った8月27日現在、目標額を超えるたくさんのご支援をいただきました。皆さまのあまりに温かいたくさんのご支援に身に余る思いをしております。また、現実的に8月末に多くの支払い期限を迎える中、お陰様でそれら負債の一部に充当することができ、心から安堵しております。これも皆さまのご支援とご協力の賜物です。本当にありがとうございます。
しかし、公的金融機関からの融資の返済はたくさん残っていますし、これまでも黒字の年度はほとんどなく、赤字を館外上映やご支援などで凌いできた年月でした。今後も度々の赤字で苦しむことが予想されます。実際、この夏の「映画女優 岡田茉莉子」は成功裏に終わりましたが、その後の「映画監督・小林政広」は残念ながら赤字となってしまいました。赤字に備え、運転資金に余裕ができることを痛感しているところです。
8月31日まで残り1週間に満たない期間ではありますが、これからに向けた備えが少しでもできますよう、改めましてご支援をお願いするところです。

これからに向けて

シネ・ヌーヴォがオープンして26年、自主上映を始めてから48年、数多くの映画を上映し、映画を通じて人生を学び、これまで歩んでまいりました。それも多くの皆さまのご支援の賜物と深く感謝しております。
今回、私たちは皆さまのご支援により救われることができました。しかし、全国のミニシアターから同じように悲鳴が聞こえています。ミニシアターへの逆風が吹く中、恒常的な赤字体質に加え、デジタル映写機の買い替え問題など、存続が危ぶまれる事態となっています。各地のミニシアターは多様な映画の数々、屈指の上映本数で、地域の上映環境を保つ「映画の砦」だと思います。しかしながら自助努力だけでは、年々ますます厳しくなる一方です。まさに、ヨーロッパの国などのような映画館の助成が大いに望まれるところです。失ってから、その価値の大きさを嘆いても後の祭りです。この夏、名古屋、京都からミニシアターが失われることは痛恨の極みです。
映画館助成に向けて、国・行政からの支援を、今後大いに求めても参りたいと思います。どうぞお力をお貸しいただきますようお願いいたします。
 
全国屈指の本数の上映環境の当館ですが、しかし、これまで上映してきた作品は映画120年の歴史では、ほんのひと握りにしかすぎません。一方で毎年、新たな映画が生まれ続けています。まだ観ぬ映画はあまりに膨大で、それら映画から受けるであろう感動、喜び、発見が、ひっそりと静かに待ち受けています。生涯の1本になるかもしれない可能性に満ちた映画たち、まだ観ぬ映画を1本でも多くスクリーンに映し出し、皆さまとご一緒したいと切に願っております。
どうか当館が、各地のミニシアターが、共に存続できるよう、皆さまのご支援・ご協力をいただき、これからも上映し続けていけるよう、心からお願いし、シネ・ヌーヴォのこれまでの歩みの最終回とさせていただきます。


「シネ・ヌーヴォFROM NOW ONプロジェクト2023」専用ページはこちら→
https://cinenouveau.thebase.in/p/00005


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