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『ブラック・ミラー』シーズン2 第1話「ずっと側にいて」

by キミシマフミタカ

英国で制作されている、1話完結のオムニバスストーリー。近未来の世界を描いたSFなのだが、どれも秀作でクオリティが高い。単に奇をてらうのではなく、英国らしく人間の心にグサりと一歩踏み込んだ、毒のあるオトナのSF世界が広がっている。

そのなかで、シーズン2の第1話「ずっと側にいて」が心に残った。

恋人が事故死、その哀しみから逃れられない女性のもとに、ある日、恋人そっくりの人形が送られて来る。肌色の肉みたいな塊をお風呂に入れると、むくむく膨らんで生前の彼そっくりの存在になる。お風呂から立ちあがり、ひとりで歩き出し、彼女に話しかける。

そのアンドロイドには、生前の彼のデータが蓄積されており、話しかけると彼そっくりの反応が返って来る。彼女は混乱する。驚きがあり、嬉しさがあり、癒しがあり、猜疑心があり、苛立ちや怒りがあり、虚しさがあり、怖さがあり、絶望があり、許しがある。

彼ではないが彼のようにそっくりな彼を、どのように受けとめればいいのか。それがこのドラマのテーマなのだが、それは彼女自身がどう生きて行くかという問いかけでもある。彼が事故死した後に、彼の子を宿していることがわかるので、苦悩は切実なのだ。

彼に食事は必要ないが、食事が必要なふりはできる。眠る必要はないが、眠るふりはできる。彼にセックスは必要ないが、きちんとセックスもできる。だとしたら、生前の彼となにがどう違うのだろう? そもそも彼と暮らすことは正しいことなのか。

映画でも小説でも、この手のアンドロイドもののラストシーンは決まっている。映画『世界でひとつの彼女』もそうだった。だがこのドラマの結末は(めったにないことだが)新鮮で、意外性がある。その結末を知るだけでも、この短いドラマを見る価値はある。

なぜなら、選択できない選択を迫られ、彼女くだした結論は、私たちの日常の迷いを断ち切るヒントになっているからだ。

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