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『両刃の先進医療』 これがアメリカのお役所仕事だ!

by 輪津 直美

アメリカにはFDA(Food and Drug Administration)という、日本の厚生労働省のような役所があって、新規医療機器の承認をしている。このドキュメンタリーは、FDAの緩い承認制度によって危険な医療機器が出回っていることを告発している。

この映画、少なくとも、知的好奇心が旺盛な人にとってはめちゃくちゃ面白いと思うのだが、邦題がとても残念だ。原題は「The Bleeding Edge」といって、「最先端」「血塗られた刃」「ひどい痛み」といった複数の意味をかけ合わせていて響きもカッコいいのだが、邦題の「両刃の先進医療」では、味気なさすぎて、一体誰が見るのかと思う。

ではなぜ私がこれを見たのかというと、仕事で見る必要があったから。結果、大変楽しい仕事となったのである。

医療機器という堅い題材を扱っているため、一見とっつきにくいが、取り上げてられている機器のほとんどが体内埋込式のもので、スプラッターホラーのような場面・描写がたびたび登場する。その手の映画が苦手な私は貧血を起こしそうになってしまった。実際、監督はこの映画を「現実のSFホラー」と表現している。この猛暑の中でちょっぴり涼しい気分を味わえること請け合いだ。

登場する「被害者」は、永久的に避妊ができるという器具を入れたせいで、皮肉にもセックスができなくなるほどの後遺症に苦しむ人、人工股関節の材質のせいで精神異常になった人、尿もれを防ぐための物質を埋め込んだら家庭が崩壊し職も失った人などなど。

生活を良くしようと思って取り入れた医療機器によって、人生を破壊するほどのダメージを受けるとは、誰が想像するだろうか。彼らの体験談は、あまりにも生々しく、おどろおどろしく、こちらまでヒリヒリと痛みや苦しみを感じるほどだ。私は自分自身に誓った。「医者(すなわち医療機器メーカーに取り込まれたやつら)の言うことは絶対に鵜呑みにしない。最後に自分を守るのは自分だ」

しかし、医療機器メーカーはそうした人々の悲痛な訴えを聞き入れず、販売促進を続けている。そして、医療業界ロビーは年間数千万ドルを使って政治家や関連団体などに働きかけ、FDAの医療器承認手続きのハードルを更に下げようとしている。トランプ大統領から指名されたFDA長官は、医療業界で相談役を歴任した業界寄りの人物である。FDAの大物の医療業界への天下りは綿々と続いており、官民の癒着は改まる気配がない。

あるとき、FDA内部の内科医グループが、申請中のCTスキャンの危険性についてFDA医療機器センター長に警告したところ、逆にPCにスパイウェアを仕込まれ、行動が逐一監視されるようになったそうだ。そして2年以内に告発者全員が失職したという。本当におそロシア…って、これアメリカの話だったよね?

ただ、こういうドキュメンタリーが作られること自体がアメリカの良さでもある。製作者は、巨大な医療機器マーケットとFDAを敵に回しているわけで、例えば日本で製薬業界と厚労省を敵に回して映画作れるかって話である。

この映画の初上映直後、バイエルは避妊器具「Essure」の販売を今年で打ち切るという発表をした。ただし、その理由はあくまでも「売上が落ちたため」だとしている。

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