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『バスターのバラード』円熟の極み!コーエン流おとぎばなし

by 和津 直美 

コーエン兄弟の新作をNetflixが独占配信していると聞いたら、観ない訳にはいかないだろう。

『バスターのバラード』は、6つの短編からなるオムニバス映画となっていて、舞台はすべてアメリカの西部開拓時代である。コーエン兄弟の得意とする寓話的ストーリーを、美しい映像と、素晴らしいキャストで描いている…

と、紋切り型の紹介文はここまで。

コーエン兄弟って、期待を裏切らない度でいったら90%以上ではないだろうか? まあ、最近は不発なものもあるのだが、今回は「さすが」であった。変なキャラが出てくるふざけた話、ほろ苦い中に甘い隠し味のあるビターチョコレートのような話、ほっこりするわ~と女子っぽい感想を抱きかけたと思ったらいきなりどん底に落とされる容赦ないストーリー、「老人と海」みたいなハードボイルドストーリー、なんだかよくわからないけどタランティーノに影響を与えそうな話、などなど、まるで「コーエンカタログ」みたいな映画だけど、それぞれが短い分、凝縮していて切れ味が見事だ。

その中でも私のイチオシは、トム・ウェイツ演じるゴールドハンター老人の話だ。

トム・ウェイツってミュージシャンなのになんでこんなに演技がうまいのか?? ハァハァする息遣いとか、ブツブツ独り言言ったりとか、じーちゃん感がリアルですごいんである。そして、素晴らしい景色の中で一人もくもくと金を探している様子は、まさに山版「老人と海」だ。この1本には、コーエンのハードボイルド精神がギュッと詰まっている。

他の5本はクセが強いので好き嫌いが分かれるだろう。このトム・ウェイツの話もクセがあるっちゃあるんだが、6本の中で一番爽快感がある(あくまでもこの6本の中でね)ので、比較的見やすい。

しかしそうは言ってもコーエン兄弟の映画なので、甘い筋書き、結末を期待し手はいけない。まあ、そもそもそういう人は彼らの映画は観ないでしょうが。万人受けしないところが、今ひとつ大ヒット作がない理由でもありましょうね。


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