ニート、ひと夏の思い出

9月半ば、まだセミが鳴いている暑い夏だった。
仕事をしていない私はゆっくりと目を覚ます。

携帯に手をかけると通知が入っていた。
フリマサイトで商品が売れたらしい。
働いていない今、フリマサイトは唯一の収入源だ。
ご購入有難うございます、と挨拶を送り梱包を始めた。
、、最後に封筒をテープで止めて、よし、ポスト投函をしに行こう。

午前中の集荷に間に合うよう、11時前に家を出た。
門に手をかけようとしたその時、大きな緑色の生物が目に入る。

カマキリだ。

彼は門の厚みに沿うように立っていた。
虫が嫌いな私は素早く手を引っ込め、様子を伺う。

彼はゆっくりとこちらに目を向けた。
数秒見つめあった後、彼はまたゆっくりと顔を背けた。

私には分かる、完全に舐められた。
悔しい気持ちを滲ませながら日傘を彼に向け、恐る恐る門を開けるのだった。

ポストまでは歩いて凡そ7分。
歩きながら思考を巡らせる。

そうだ、帰ったら彼の写真を撮ろう。
ひと夏の思い出にするのだ。

ポストに封筒を入れ、体を180°回転させた。
ジリジリ、ジメジメとした暑さだ。

家の前に着くと、1人お爺さんが立っていた。
向かいに住んでいる人だ。
なんとタイミングが悪い。
人がいては彼の写真が撮れないじゃないか。

しかし動作を見てみろ。
今にも走り出しそうだ。

念入りな準備運動を終わらせ、腕をふりはじめた。
なんだ、少し待てば走り出す、その後に写真を撮ろう。

門を見ると彼はまだ狭い足場にしがみついている。
大きなトラックが通ると、彼は体を左右に揺らしていた。

また恐る恐る門を開け、扉の前に着いた。
後はお爺さんが走り出すのを待つだけだ。

するとどうした。
お爺さんはその場で走り出した。

進まない、足踏みである。

えぇ、

これでは彼の写真を撮ったら足踏みしているお爺さんも写ってしまうではないか。

というかお爺さんを盗撮している様に思われてしまうではないか。

がっくしと肩を落として、私は諦めるように家に入ったのだった。

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