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サバイバーになれない。

 私は「がんサバイバー」という言葉があまり好きではありません。そもそも、がんサバイバーはどんな人を指すのか。きちんと理解するために調べてみました。


がんサバイバーとは、がんの診断を受けた後を生きていく人々のことを指す言葉です。

がん研有明病院 サバイバーシップ支援室「がんサバイバーシップ」

サバイバーの意味も調べてみました。

survivor:生き残った人、生存者、助かった人、遺族、残存物、遺物

Weblio英和辞典・和英辞典


 定義的には私もがんサバイバーに含まれますが、「私はがんサバイバーです。」と名乗るのは何だか違う。「がんサバイバーなんですね。」と誰かから言われるのは、もっとしっくりこない。「がん経験者」の方が受け入れられます。この話をしたときに、「経験したというのは客観的な事実だから、受け入れやすいのかもしれないね。」と言っていた人がいました。すごく納得。がんになった、がんの影響で様々な経験をしたのは事実なので、「がん経験者」の方が今の私にはしっくりくるのかもしれません。
 「がんサバイバー」を自分に使いたくない理由のひとつに、私はまだサバイブできていないと思っていることがあります。手術は無事に終わって、今は経過観察中。でも術後初めての精密検査はまだ受けていないし、再発や転移がないと現時点では言い切れない。最低でも5年は安心できないと考えています。闘い終わった、生き残ったという実感がありません。
 もうひとつの理由が、「がんサバイバー」と名乗るのが申し訳ないこと。今受けた治療は手術だけだし、甲状腺がんはかなり予後がいいと言われています。そんな私が「がんサバイバー」と言うのは、他の患者さんに申し訳ないなと感じてしまって。タイミングがあまりにも悪いし、かなり気持ちが落ち込んだこともあります。私なりのつらさはもちろんあるけれど、多くのがん患者さんほどしんどい思いはしていないのではないかと考えています。
 「サバイバー」と聞いて私が思い浮かべるのは、とても強い人や力を尽くして闘った人。闘病にはそれぞれのつらさがあると思うからこそ、「がんサバイバー」とまとめてしまうことに違和感を抱くのかもしれません。一言で表すことによって「どんな存在を指すのか分かりやすくなる」というメリットがあるのは分かりますが、あまり使いたくないのです。

 私の思う「がんサバイバー」に最も近い書き方をしている資料を見つけました。

“survivor”の言葉が用いられた当初は、がんからの生存者やがんに打ち克っ た人という意味合いが強かった。しかし、「がんとともに生きる」「がんを持ちながら生活する」人からすると、生存者や打ち克った人だけに焦点を当てた考え方はやや違和感があった。現在、がんサバイバーは、がんが治癒した人だけを意味するのではなく、がんの診断を受けたときから死を迎えるまでの、全ての段階にある人と定義されている。

がん専門相談員のための学習の手引き ~実践に役立つエッセンス~ 第3版

 「がんサバイバー」にも「サバイバー」にも、「生き残った」「生きていく」という言葉が含まれています。私の考える意味に最も近い説明でも、「死を迎えるまで」と書かれています。ここでひとつ疑問が生まれました。
 じゃあ、亡くなった人は?
がんで亡くなった人も、亡くなった人こそ、たくさん闘ったはずです。私には想像することしかできませんが、語りつくせないほどのつらい治療を経験して様々なことと葛藤したのではないでしょうか。私でさえ、色々なことと闘っているのに。
 たくさんの苦しみから解放されたのだから、「がんサバイバー」と呼ばないのかもしれない。「がんサバイバーだった」とするのがいいのかもしれない。そう考えましたが、「やっぱりいやだな。」と思いました。もし私が「がんサバイバー」と名乗りたくなって、その後もしがんで亡くなる日が来たとしたら。お空へ行った途端に「がんサバイバー」の定義から外れてしまうなんて、がんばった事実が消えてしまうみたいで。もやもやするのです。

 がん治療、がんによる様々な影響を経験した人の存在を一言で表すのは本当に難しい。「がんと共に暮らす人」をかっこよく、分かりやすく表現できる言葉がないか、ずっと考えています。


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