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「あなたのつらさは、あなたにしか分からない。」


「いち香さんのつらさは、いち香さんにしか分からない。」

 退院が決まってからぼろぼろの私に、受け持ち看護師さんがかけてくれた言葉です。この言葉をかけてもらったとき、私のことを理解してくれた感じ、看護師さんと通じ合えた気持ちになれたから嬉しかったのです。
 学生のとき、実習中に「今、患者さんと気持ちが通じ合ったな。」と感じる瞬間が何度かありました。心がじんわり温かくなるような、言葉では表現できない不思議な感覚でした。でもそんな経験ができたのは、ほんの数回。どれも一瞬の出来事ですが、その後の患者さんとの関係性が何となく変化したのを覚えています。
 看護師さんは一度に何人もの患者さんを受け持って、色々な業務があって、患者さんとゆっくり話す時間がなかなかない印象でした。忙しいなかで、患者さんと心を通わせるのは本当に難しいことなのだろうなと思っていました。けれど自分が患者側になって、「看護師さんと通じ合えた」と思えることがどれだけ大切なのか痛感しました。それに、患者さんとゆっくり話す時間は作れる。入院生活で学んだことのひとつです。これについては、また別の記事に書こうかなと思っています。
 私の受け持ちさんがベテランさんだったことも、この言葉が彼女から出てきた理由のひとつだと思います。でも、どれだけキャリアが長くても相手のことを思わなければ出てこない言葉でしょう。つらさは本人にしか分からないと知ったうえで、それでも理解したい、寄り添いたいと考えてくれているのではないか。そう感じたから、嬉しかったのです。

私よりもっとつらい思いをしている人はたくさんいるとか、そういうことではなくて。私のつらさは私だけのものだし、誰に分かるものでもないし。測れるものでも比べられるものでもないと思うし。それぞれにそれぞれのつらさとか思いがあるのだと思った。

術後8日目の私の日記より

 看護師さんからこの言葉をかけてもらった日の日記に書いたことです。同じがんでも、もっとつらい治療を受けている人はたくさんいる。がんじゃなくても、つらい状況に置かれて闘っている人はいる。私はどちらかというと病状が重くないのに、「つらい」と言っていいのか。そう考えてしまうときもありました。
 でも受け持ちさんが言うように、本人のつらさは本人にしか分かりません。私のつらさは私だけのものです。本人が「つらい」と思うのなら、それは間違いなく「つらい」のです。つらさはきっと、痛みと同じ。本人が「痛い」と感じたら「痛い」。つらいと感じることをもう少しシンプルに捉えてもいいのかもしれないと考えられるようになりました。

 病気になったから経験したこと、考えたことや感じたことがたくさんあります。どれも無駄だとは思っていないし、病気になったからこそ得られたものです。「つらい」の捉え方も、得られたもののひとつ。私の「つらい」が私にしか分からないのなら私だけの「つらい」を大事にしたいな、と思っています。つらさに向き合うことがしんどいときは、無理せずに。でも「つらい」と感じるのなら間違いなく「つらい」のだと素直に受け止めて「つらい」も私の一部だと考えると、ほんの少し楽に過ごせそうな気がしています。

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