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アメノヒの懐古

何が引き金になったのだろう。ふかふかの布団に寝っ転がってお気に入りのランプを眺めていたら奥の奥にしまっていたはずの感情の蓋が開いた。止めどなく溢れてくる、どこか懐かしさもあるその感情に少し距離をとって「何故?」と考えていたけれど分からなかった。近づいてみたら見事に巻き込まれて、でも珍しくまぁいっかと思う。


振り返れば、今日はスタートから何だかおかしかった。鬱々した気持ちを引きずりながら迎えた月曜の朝、体にまとわりつくような重い雨で足元を濡らしながら今日の雨は好きじゃないとぼんやり考える。透明の傘から見える空は灰色で気は滅入るが、地面に溜まった雨は世界の光を反射して美しいし、それがいつも好きだったのに。履き慣れていてもなぜか擦れて痛む左足をかばうように歩いていたら信号が点滅している。一瞬走ろうとして足を止めた。急がなくていいと、なんとなく思ったからだ。いつもの時間より10分遅く出たせいで忙しい朝になることが目に見えていたのだけど。

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このところ、高速道路の右車線を走り続けるような毎日を送っていると感じていた。特に仕事をしているときは多少しんどくてもそこから降りてはならないと思っていたし、降りずに走れている自分に安心しているところもあった。まだ走れる、走れるだけの思いと活力がある、大丈夫だ、なんて言い聞かせて。でも帰り道、もう特段大きな予定もないのに「早く、早く帰らねば」「帰ったら〜をして〜をするじゃん。そして…」などと何者かに追われるように次々思考を巡らせていることに気づいて、このまま走り続けていたら普通の道を速度60kmで走れなくなるのではと怖くなった。どんどん早く、と生きているうちに人の目に映らなくなったりして。あ、そんな物語書くのもおもしろいな、などという考えが頭をよぎり、急にわくわくし始めたけれど、たぶん「世にも奇妙な物語」か何かだろう。似たような話があったことを思い出して途端に冷めた。そして何かがぷすっと消えて、何を燃やして動いていたのか分からなくなった。

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尊敬する先輩が困った顔をしながら話しているのが視界に入ったけれど、大丈夫かな?と思いながら先輩ならどうにかなさると考えるのをやめた。郵便受けに入っていた再配達の伝票を見てみぬふりをした。どうせ雨だし、と洗濯機をまわさなかった。昨日、手の爪を整えたとき、今日の宿題にした足の爪はまた明日の宿題にした。でもメディキュットは履いた。何を「する」と選択して何を「しない」と判断するのか、そのラインがあやふやで曖昧になった。でもそれでいいと思った。整えられた、薄いピンク色の爪を眺める。なんか違った気がする。多分もう少しスモーキーな色味でないと…合わないじゃん。即座に何に?と自問自答しかけ、ほらほらその癖とため息をつく。


いただいた花瓶に何か飾らなきゃと昨日買ってきた、儚げで青い色をした花がもう元気がない。日当たりが悪かったのだろうか。それとも元々長くは持たない花なのだろうか。調べようとして花の名を知らなかったことに気づく。カタカナ、苦手だから。適当な言い訳をつけて、明日の朝は窓の近くに置いてあげようと思う。

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早々とベットに横になって、眠気の「ね」の字すら襲ってきてないけれどアラームをしかけ、天井を眺めて考え事をしている。そろそろ心に溜まった言葉と思考の断片を整理したいなと久々にnoteの存在を思い出す。でも書くことはない。だからこうして徒然なるままにアウトプットしているのかもしれない。着地点も決めずに書き始めること自体珍しい。でも着地ってなんだろう、そもそも着地しなくちゃいけないの?と思い始めたあたり、長引きそうな様子だ。それか「進撃の巨人」のせいかもしれない。エレンの母  カルラ・イェーガーが「特別じゃなきゃいけないんですか?絶対に人から認められなければいけないですか?私はそうは思ってませんよ。」と言ったから。その言葉が頭をぐるぐる回っている。

雨の日のプレイリストでも作ろう…そう思いながら、携帯を布団に投げる。きっと、明日の私が、きっと。





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