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MOROHAと春、3月

「3月」と名付けられたプレイリストを開き、違う、きみも違うとスクロールする。今月、きっとヘビロテするだろうとそこへ放り込んだ過去の私に、違うっぽいよと心の中で呟きながら上へ上へと流れていく文字を眺める。今日の私にはどれも違ったらしい。


昔から春が苦手だ。曖昧で中途半端で、毎度心がざわざわする。綺麗な色や甘い香りに気を取られているうちに、ぬるっとさも、もう決められていてそうするしか術がないかのように現実を突きつけてくる感じもあざとくて好きになれない。寒さに震えていた日々とはもうさよならだよと言わんばかりの暖かい日差しで俄かに喜ばせておいて、日陰に入ればまだまだ全然寒いじゃん、今日もまた上着を片手に歩かざるを得なかった。どっちかにしておくれと思いながら、窓を開けてみてもう一枚、服を重ねる。夜の散歩は久しぶり。


街へ行くバスが横を通り過ぎた。乗客は一人だ。イヤホンがバックに絡まって使いにくそうなのに直そうともせず音楽を聴いている女性は、頭を窓につけて目を閉じている。仕事帰りだろうか。今週もあと一日。カウントダウンをしながら家路につく道のりを省エネモードで乗り切ろうとしているのかもしれない。歩きながらぼんやり眺めていたが、速いスピードで私を追い抜いていってしまったので、どこへ向かうかも決めていない道へと視線を戻す。とその時、イヤホンから聴こえてきたMOROHA。…きみ!きみだよ!きみだったわ。今日はしっくりくるものに出会えないと思っていたから、不規則動詞の活用みたいに喜び、なんという曲か携帯に目をやる。「げこくのジョー」お気に入りには入っていなかった。


この時期はいつもに増して精神を削られるから、好きではないのかもしれないと思う。仕事で評価、評価、評価しまくった挙句、人からも評価される。「〜なのに、めちゃめちゃ頑張ってくれたね」「〜のためにあんな動けるのすごい」と褒めていただけるのは素直にありがとうと思うし、純粋に嬉しいのは嬉しい。これまで取り組んできた成果はおそらく1番目に見えて分かる時期だし、逆に出来なかったことも手に取るように分かる時期でもある。そこで大抵、大いに反省をして次こそはと未来の自分に宿題を出すのだけれど、毎日がその繰り返しなのだ。かと思えば「次の人、〜であんま…らしいよ」という噂もあちこちで聞こえてきて、それらを聞くたびに、正直、そんなん分からんやん、自分の目で見たものが全てやないんか、会う前からそんな決めつけなくてよかろう…と胃が痛くなる。逆に自分がどこかでそう言われたら…と思うと変なやる気の火がつきかけて、違う、その頑張り方は違うと深呼吸する。何のために頑張るのか、そこは見失いたくない。と思ったところで、ちょっと歩き疲れたことに気づく。救いを求めるように座った公園の椅子はかたくて痛い。


何かがふわっと終わりを迎えた気がして、引っ越しを決めた。それは何なのだろうと考えてみたけれどわからなかった。冷たい冬と柔らかな春の気配の混ざった風がスカートの裾を揺らす。「黙闘」曲が変わった。優しいUKさんのギターが沁みて大きく息を吸う。そういえば、いつもそうだった。何がというはっきりとした原因や理由はわからないけれど、自分の中で節目だと思ったときや手詰まり感を感じ取ったとき、大胆に行動を起こす。身近でそれを見てくれている人は何を急にと驚くが、私の中で緩やかに終わりへと向かっていたのだ。何かが終わった。そう確信したら、その正体が「正解」と少し心の隅に姿を現したけれど、もう終わったからと見てみぬふりをする。


引っ越しの段ボールが届いた部屋を想像して寂しい気持ちになったから帰ることにした。あと少しだから。収納は少ないし、夏は暑くて冬は寒い今の家も出てしまえばきっと、胸がギュンとするような懐かしさと手を伸ばしても届かない記憶の中に葬られてしまって寂しくなる。

何だか昔住んでた家は昔、大事だった人に似ている。もう入れやしないし入ったところでただ淡くてエモい感情が襲ってくるだけだけど、遠のいてしまったらちょっとこれで良かったんかなと思わせてくる。厄介だ。


鼻の頭が冷たくなってきた。もう少ししたら桜も咲くのかな。昼の桜より夜の桜のほうが好きになってきたあたり、歳を重ねてきた感じがする。花見といってワイワイすることは今年も無さそうだし、いつこの季節を味わおうという考えが頭をよぎって、なんだ結構、春好きなんじゃ?と笑う。「鳩尾から君へ」が終わって「行くぞ」に曲が変わったと同時に立ち上がる。ありがとう、MOROHA。私はもう元気だよ。










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