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不定期開催・アラサー女(平社員)による富豪ごっこ

「私に似合うものを見繕ってくれ、金はいくらでも出す」

この台詞、金持ちが言うのなら、なんら違和感はないだろう。
しかしこの台詞を言い放つのは、関西の中小企業勤めの、決して高給取りではない平社員のアラサー女、つまり私だ。

もともと私は根っからの浪費家である。
それは幼少期までに遡り、月々に親から貰うお小遣いは何かしらに注ぎ込んでいたし(だいたいは漫画の月刊誌だったような気がする)、お年玉なんて貰おうもんなら、残金は必ず500円以下になるくらいまで、それはそれは綺麗に使い切ってしまっていた。ゲームを買ったり雑貨屋さんの福袋を買ったり、当時の自分を思い返して客観的に見ても、非常に気持ちの良い買いっぷりだったと思う。まるで富豪だ。

大人になり、自分でお金を稼ぐようになり、お金を手にすることの大変さを知ってからは、あまり散財することはなくなった。貯金もしなければいけないし、という人並みの考えも持ち合わせるようになった。だけど、事件は突然やってくるのだ。

25歳当時、友人に紹介してもらった、ちょっと良い感じの人がいた。
背は高いし、フットサルが趣味という爽やか系だし、性格も気さくで良い人だし、という私にはもったいない優良物件の人だった。

友人を介して初めて会ったのが11月の終わり頃だった。そこからメッセージのやり取りが続き、「年内にもう一回食事行きたいですね!」と向こうから送られてきた。
二人きりで食事! よし!!! と喜び、「行きたいです!!!!!」と前のめりに返信をし、眠りにつく。そして翌朝起きて気づく。

……着ていく服、ない。

いや、正確に言うと、服はある。たくさんある。
年頃なのでお洒落には気を使っていたと思うし、カジュアルなテイストが好きだったので、そういう服はたくさんある。

ただ、服がないのだ。
シュッとしたスタイルの、爽やかな彼の隣にいるのに相応する服がないのだ。
デートはこの週末。まずい、まずいぞ……。平日の仕事終わりに急いで買いに行くしかないぞ……。そんな短時間で選べるのか? 私。似合ってもないのに「お似合いです~~」と勧めてくる店員さんの圧に打ち勝ちながら、自分に似合うデート服を選べるのか? 私。

……自信ない。
自信ないが、買うしかない。なぜなら服がないから。

ちょうどその日、高校時代の友人2人とご飯に行った。「週末にデートなんだ~」と話したとき、ハッとひらめいた。そうだ、この2人に選んでもらえばいいんだ。

二人に事情を話し、申し訳ないが食べていたご飯を急いで胃の中に収めてもらい、会計を終わらせ、ショッピングモールのアパレルショップへ駆け込んだ。

そして言い放ったのが、冒頭の台詞だ。
「私に似合うものを見繕ってくれ、金はいくらでも出す」

本当に大丈夫? と何度も確認を取ってくる友人に「大丈夫、金はある(いや嘘、あんまりないけど)」と答え続け、友人が私に見繕った商品を値札も見ずにレジに持って行き、クレジットカードという名の魔法のカードを切りまくった。これを1時間の間に3店舗で行い、コート、ニット、スカート、ブーツと、フルコーディネートが完成した。

これらを身に纏って挑んだデートが楽しかったのは言うまでもないが、もともとの浪費家気質のようなものが再燃してしまった感覚もあった。関西の中小企業の平社員で、決して給料が良いわけではない。だけど、やはり普段考えてお金を使っていて、我慢している時も多かった分、一種の快楽のようなものがあった。お金を使うの、楽しい。
「なんか私らも楽しかったわ」と友人にも好評だったし、私もまるでスタイリストを雇っている芸能人のような気分になれて悪い気はしなかったし、これは頻繁には無理だけどまたやってみてもいいな……。

それからというものの、その時の快楽が忘れられない私は「富豪ごっこ」と称して友人を呼び出し、またもや冒頭の台詞を言い放つ。今年30歳になったので、第1回富豪ごっこ開催時から5年経っているが、転職はしたものの未だ関西中小企業の平社員というのは変わらぬままだ。ただ、転職して少し給料は上がったので、その時よりは少しお高い服でも魔法のカードを切れるようになった。不定期開催ではあるので、年に1回開催するかしないかなのだが、今年は夏のボーナスの時期に開催してもいいかもしれないな……。

そんなことを考えていたのだが、再来週にデートの予定が入った。デートなんていつぶりだ。楽しみすぎるじゃないか! 何着て行こっかなー?
舞い上がる私は、そのままの勢いでクローゼットを開けた。

……あれ、服がない。

デジャヴだろうか、いつの日かこんなことがあったような気がする。いや、あったわ。
そして服はあるんだ。あるんだけどさ、あれ、これもデジャヴだな。

ということで、ボーナス前の少しお財布が寂しい時期ではあるが、近々友人を呼びだして第4回富豪ごっこを開催しようかと企んでいる。

もちろん、金はいくらでも出す。
その代わり、私が一番可愛く見える服を選んでくれ。

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