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僕にフランス語を選択させた女傑へ

大学1年生の時、僕は全部で4つあるフランス語の授業の単位を全て落とした。教授の話はまるで理解が出来なかったし、失礼ながらそもそも理解する気すら起きなかった(それはフランス自体にも興味がなかったのが原因なのかもしれない)。

そんな僕が二外でフランス語を選んだのには、ある女傑の存在が大きく影響している。先日のジャパンカップにて三冠対決を制した最強牝馬『アーモンドアイ』その馬である。


浪人時代のとある日曜日、僕は予備校を抜け出して隣接しているヨドバシカメラへと走った。塾の仲間もいよいよ緊張感が増してきた時期で、その日も予備校では模擬試験が行われていたことを記憶している。

ただ、その日の僕は誰よりもソワソワしていた。

生まれて初めてリアルタイムでそのキャリアを追うことが出来た三冠馬、アーモンドアイ。その無限の可能性が詰まったレースが幕を開けた。

結果はご存じの通りの圧勝。それも『2:20.6』という従来のレコードを1秒以上縮めるスーパーレコードのオマケつきであった。

この美しく力強い走りを前にした僕は、「この馬なら凱旋門賞も勝てるのでは...」とすっかり浮足立ってしまった。スタッフの忠告を無視して塾の自習室から撤収すると、僕はすぐにエアトリで『羽田ーCDG』の旅費を検索。浪人生活が終わり次第、旅費を稼いで翌年10月にはフランスに飛ぶ算段を立てた。

そして迎えた3月、晴れて志望校に合格した僕は、迷わずにフランス語を第二外国語として選択したのだった。


その後のアーモンドアイの活躍は言うまでもないが、全てが順調に進んだわけではない。2度の安田記念での敗退、香港・ドバイ競走では社会情勢による出走取り消しの不運にも見舞われた。
また3〜4歳頃のアーモンドアイは、1つのレースに全力を出し過ぎるが故にレース後は毎回熱中症に見舞われいて、そのため夢だった凱旋門賞挑戦も立ち消えてしてしまった(結果、僕にフランス語フル落単の刻印だけが残った)。

それに加えアーモンドアイと僕の馬券の相性は最悪であった。予備校の入学式(?)を抜け出して馬券を買いに走って無事に外した桜花賞。8レース全て外して初めてのヤケ酒を浴びた1度目の安田記念。バス代までも溶かした雨の有馬記念。

これらのレースの終了後には負の感情がふつふつと湧き出し、「競馬を引退する」という競馬ファンの常套句を毎回のように吐いていた。
ただ馬券による損益を抜きにしても、普通の大学生活に馴染めなかった僕にとってそれは刺激的で幸せな時間だった。結果論ではあるが、今となっては全てがいい思い出である。


そんなアーモンドアイも引退を迎える。

引退レースに選ばれたのは2年前レコードタイムで駆け抜けた東京2400m、ジャパンカップ。しかも今年は無敗の三冠馬『コントレイル』『デアリングタクト』が参戦するのだ。
今世紀最大のビッグレースと言ってもいいこのジャパンカップ。天邪鬼な僕は例によってコントレイルに本命を打った。

結果はアーモンドアイの完勝。GⅠの勝利数はこれで9勝、獲得賞金でもキタサンブラックを抜いて歴代1位となった。史上最強牝馬の誕生である。

そして僕の馬券はまた外れてしまった。大学の二外の単位も、曲がりなりに続けてきた予備校のバイト代も、最後までとことん貢がされてしまった。それでもこの3年間、取るに足らない僕の毎日を色づかせてくれたのは競馬であり、その中心にはこの馬がいた。

これから繁殖牝馬として第2の馬生を送る。早ければ24年にエピファネイアとの子供がターフに戻ってくるそうだ。今はすっかり情熱を無くしてしまった競馬だけど、この馬と同じ、美しい瞳をした子供が走ると聞いたらまた競馬に熱中してしまう。そんな気がして止まない。

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