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ショートショート「たまきとすがわら(仮)」

「うぃ、久しぶり」
「うぃ、久しぶり」
「11月なのにまだ暑いね」
「昼はね。夜は丁度良いくらいだけど。今日はどこ行く?」
「んー。歩いて10分のマックか、歩いて30分のマック」
「歩いて30分のマックで」
「おけ」
「最近どう?」
「ゼミ相変わらず。夏休み前とか発表会終わりには飲みに行くくらいには仲良いけど、遠出の遊びに誘われたら悩むぐらい。あと、前も言ったかな。自分が環って名前なのに、苗字が玉木って女の子もいて地味にめんどくさい」
「渋すぎるって」
「でも、後期から来た先輩と教授が面白くてさ。先輩は見た目が、眠たい藤井聡太みたいで。将棋の」
「藤井聡太の時点で眠そうなのに?」
「そう。こっちが眠かったら見分け付かないの。で、その先輩がいつもなんか食っててさ。何食べてるんですかって聞いたら龍角散で」
「不味いのど飴?あんなの食う方が喉に悪くね?」
「でも、その先輩、味が好きだから龍角散食べてんの」
「ええそんなやついる?」
「いた。いっつもカバンに龍角散入ってて、この前その先輩誕生日で打ち合わせしてないのにゼミ生全員龍角散プレゼントしててさ。」
「龍角散に埋もれる藤井聡太は流石にシュールかも」
「んで、コロナ全盛期の頃、韓国か中国で龍角散がコロナに効くみたいな噂あったじゃん」
「初めて聞いた」
「その噂聞いた中国人が龍角散買い占めてどこにも売ってないって怒っててくそ笑ったわ」
「爆買い中国人の影響直で受ける人初めて聞いたかも」
「教授は教授で、ゼミ室の正面をスクリーンでパソコンの画面映してたときに、私はロボットではありません。みたいなAI避けあるじゃん」
「信号機の画像を選んでください。みたいなやつ?」
「そう。そのAI避け突破できなくて今ゼミでロボ疑惑出てる」
「草。コンセントで充電してなかった?」
「たまに語尾がロボになってたかも」
「それはもうロボやん」
「って感じかな。大学は」
「俺は今日初めての免許更新行ってきてさ」
「それはお疲れ」
「当たり前なんだけど聞いてた通りおもんなすぎてさ」
「うん」
「2時間ずっと右上に出てた手話のワイプ見てたら、"社会"と"守る"は覚えた」
「そんな暇なことある?」
「あと、車と自転車の事故のドラレコが流れてて、その自転車がカマキリハンドルだったのね」
「なっつ!ヤンキー大好きのカマハン」
「そう。その時点でまぁまぁ面白くて。で、事故の再現VTRをCGで流してたんだけどその再現VTRの自転車もカマハンだった」
「うわー、VTRの製作者が変なとこ拘ったせいで意識が事故の危険さよりヤンキーのダサさの方に振り切られちゃったんだ」
「だから、環もカマハンには気を付けなよ」
「カマハンに奴には碌な奴いないもんな」
「過去にカマハンになんかされてる言い方すぎん?」
「そんなことないけど」
「見て。今、郵便局から出てきたおばあちゃん、腰直角すぎて技術室の定規みたい」
「言うな言うな。あの角度は歴史を物語ってるんだから」
「こんなとこにメガネ屋さんあったっけ」
「1ヶ月くらい前にできた新しいとこ。多分前に藤咲小学校の向かいにあったとこが移転したっぽい」
「あの建物古かったしね」
「レジしてた店員さん見た?」
「見てない。知り合い?」
「メガネ屋の店員なのに裸眼だった」
「別にそんな人いてもいいでしょ」
「いや、だめ。それぞれに役割ってのがあるでしょ」
「役割」
「メガネ屋さんの役割はメガネを売るだけじゃなくて、生活に馴染む馴染まないとか、顔の系統で似合う似合わないとかのイメージができるじゃん」
「あぁ、何となく言いたいことは分からなくもないけど」
「他にも美容師さんが帽子被ってるとかさ」
「北海道なのに暑い。みたいなことでしょ?」
「違う。もっと簡単に猿でも分かるように説明すると、ウキウキ、ウキキーーみたいなこと」
「猿すぎるって」
「今度猿に会ったら聞いてみて」
「地元のツレみたいに言うな。そういや、バイト探してたっけ」
「いや、もう見つけた。駅前の塾講師」
「あそうなん。誰に何教えてんの?」
「授業自体は中学生に数学で、空きコマにたまに宿題の理科とか」
「数学は計算だからまだしも理科とか覚えてんの?」
「急に言われるとわかんないけど、問題とか資料集見たらやっぱ覚えてるもんだね。覚えてるってより思い出せるって感覚かも」
「中学理科とか全然解ける気しないわ」
「そのバイトもさ、生徒にはタメ口で話してるのね。仲良い感じになりたいから」
「うん」
「そしたら、40歳くらいの塾長に、菅原さん仲良いのは良いけど先生の立場なら生徒から大人に見られるんだから生徒相手でも敬語の方がいいですね。それが社会なんだから。って言われてさ」
「あー、めんどくさいね」
「そう。で、何が怠いってさ、その塾長何かを表現するときにすぐエモいって言うのね」
「ほう」
「40にもなってエモいとかいう、表現力と思考力を放棄して定義のない中身空っぽの言葉乱用する大人に言われたくないなって思ってさ」
「うわー、じわじわ分かるかもその感じ」
「まぁ、塾長とはそんなに関わる機会ないからいんだけどさ」
「塾長の言い分はわかるけど、環の腑に落ちなさの方が何故か勝ってる理由がわかんないのなんでだろ」
「テツアンドトモ?」
「なんでだろうなんでだろうとは言ってない。赤と青のジャージでギターも持ってないし」
「そういや、Aちゃんとどう最近。まだ続いてる?サークルで知り合ったんだっけ」
「まだ続いてるよ」
「今何ヶ月?」
「付き合って今月で5ヶ月目」
「5ヶ月ってことはもう手とか繋いでんの?」
「中学生じゃないんだから。大学生の恋愛舐めんな」
「好き?」
「しょうみ、好き」
「かー!!羨ましすぎる。どこが好き?」
「美人だし話してて面白いし良い子だなって」
「恋じゃん。ちゃんとデートは靴底高い靴履いて行った?」
「おいやめろ。俺が、ちょっとでも身長高いと思われたいから女の子と遊びに行く時靴底高い靴履くダサくてキモいカッコつけをいじんな」
「実際は?」
「もちろん履いて行った」
「環はデート中に、自分のことキモいなって思いながらいつもよりちょっと目線高かったんだ」
「言うな言うな」
「でも、環の相手に好かれようと小さい意識を積み重ねられるとこ偉いわ」
「右ストレート1発を決める能力ない分、ちっちゃなジャブ打ってくしかなくね?」
「うわ、その言葉にワンパンKOされたわ」
「別に俺が落としたいの菅原じゃないんだけどな」
「でも結果的にAちゃんをKOできたんだ」
「たまたま上手くいっただけだよ」
「Aちゃんの地元こっち?」
「そう。それこそ藤咲小出身って」
「裸眼のメガネ屋の藤咲小。Aちゃんは裸眼?」
「それそんな気にならんやろ。ちなみに裸眼」
「Aちゃんは裸眼ね。メモメモ」
「そんな情報メモすんな。遊んでる時にAが、食欲は人の前で暴れてもいい唯一の三大欲求だから食べないと損、って言っててさ」
「Aちゃん、さては天才?」
「サークルでもたまに冗談言う子なんだけど、どんな時もそんな感じなんだって思ってもう評価爆上がりですよ」
「面白い子じゃん。いつか会ってみたいかも」
「向こうも学校とバイト忙しいらしいから、落ち着いたら会わせてあげる」
「楽しみに待ってるわ」
「うわ店内めっちゃ混んでる。流石に学生多すぎない?」
「ここで名探偵菅原の推理によると、この混み具合と11月と言うことからテスト勉強しにきた高校生が大半と言ったところでしょうか」
「誰でも分かるバカ推理すんなぽんこつ探偵」
「あ、テリヤキのセット、ポテトとコーラで両方Lにしてください。あと、バニラシェイクのS。環は?」
「チーズバーガーセットのポテトとオレンジ。あと単品でもういっこチーズバーガーください」
「チーズバーガー2個はダブルチーズバーガーとは別?」
「別。目瞑って食ったら一緒だけど」
「環、先に席取っといて。持ってくから」
「あい。これ俺の分の730円」
「あい」

「お待たせ、これとこれ環の分」
「お、さんきゅー」
「いただきまふ」
「いただきます言いながら食べんな」
「美味い。チキンラーメンくらい美味いかも」
「その褒め方、2口目以降期待できなさそう」
「そこはマックの腕の見せ所ですよ」
「世界ナンバーワンファストフードを試すな。」
「世界で店舗数が1番のファストフードってマックじゃないらしいよ」
「え、どこ?」
「サブウェイ」
「ええ、意外」
「ここら辺ないもんね」
「なぁ、今俺ら大学生じゃん?」
「うん」
「若い時はお金がなくて時間がある。老いたらお金はあるけど時間がない。みたいなのあるじゃん」
「うん」
「もし、菅原が若いのに時間がなくてお金がある状況だったらどうする?」
「どうするとは?どんくらい時間がなくてお金があるの?」
「例えば、あと数年しか生きられないけど数千万あるとか」
「どうしよっか。一旦環とマック来てから考える」
「まぁ、わかんないよな」


オチとかないです。最近読んだショートショートにオチがなくてもいいって書いてあったんで。ええ。
今回のは、普段僕が誰かと話してる熱量をそのまま"環"と"菅原"に置き換えただけで、事件も起きなければ希望も絶望もなく、大学生2人の「いつも通り」を覗き見してるだけですね。文字にしてみて、自分がこんな話を普段してんのかって思うと緩くていいですね。
いつかあなたとも、しょうもない話をしながら遠い方のマックまで歩きたいです。

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