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ねむり

疲れ果てると、何年も前に立体駐車場の屋上で眠っていた時間を思い出す。

朝は薄暗い時間に出勤して、日付が変わる頃帰宅していた。好きなことを仕事にしているんだから、だからあなたは恵まれているのよ、という理由で搾取される、よくある会社だった。

家から5分ほどの立体駐車場に車を停めていた。疲れれば疲れるほどはやく家に帰って寝たいのに、どうしても車から降りられなかった。しょっちゅう車の中で眠った。

駐車場の屋上から飛んで死のうと思った。まぁ今生きているんだから、思っただけなんだけど。ボロボロの建物は屋上につづく扉の鍵まで壊れていて、ドアノブをひねると音を立てて簡単に開いた。誰も来ない。しずかで寒かった。死ねばきっとみんながわたしの辛さを分かってくれる、それなのに死ぬこともできない、そう思って泣いた。そのときのわたしには仕事を続けるか死ぬかしか選択肢がなくて、それがおかしいということにも気づけていなかった。泣いたら泣き疲れてそのまま屋上で寝た。世界一さみしくて安心な眠りだった。

それからたびたび屋上で眠った。あのときの眠りがわたしを少し救っていたと思う。

それからわたしは仕事を辞めて引越して、今はその立体駐車場も使ってない。最近通りかかったら、駐車場は取り壊されて綺麗な建物にかわってた。わたしからあふれた悲しみをすべて吸い込んだあの駐車場は消えた。過去は清算されたんだね、と思った。思い出してつらくても、傷がずっと治らなくても、かさぶたを撫でながら今は今を生きていくしかない。

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