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【企画参加】 春の夢 〜 #シロクマ文芸部

春の夢をセットした。
まだ君は少女の面影を残し、ふんわりとしたスカートから頼りない脚を露わにし手を振って見せる。まだ中には触れないでおこう。細いつま先が地面に着くと同時にポンと跳ね上がり、君は前のめりになりながら空を掻いている。蝶々が懸命に先導しながら、レースの付いた大きな襟を翼のように大きく波打たせて花畑を跨いで君が近づく。僕は大きく手を広げながら君が堕ちて来るのを待ち構え、ピンク色に色づいたジェリービーンズのようなくちびるを奪う。

夏の夢にセットした。
君はちょっと熟れる前のリンゴのような瑞々しい肌を熱い太陽にさらしていた。剥いたばかりのジューシーな桃を持て余しながらきつそうにビキニの中に詰め込んでいた。隠したくなさそうな青く小さな三角形の布はあくまでも控えめで、揺れてこぼれ落ちそうなその重さが僕の視線を釘付けにしていた。太腿の付け根に結ばれた細い紐をつい引っ張ってしまいそうな衝動に駆られながら、緩く重みのある膨らみの手応えを楽しむ。

秋の夢にセットする。
はらはらと落ちては隠す熟れすぎたぶどうの実。隠しても隠してもぷるりと顔を出して来る欲情に、僕は隙なくしゃぶりつくけど君はそれ以上に激しく身悶えて、豊穣極まり天肥ゆる。叫び声が空高くこだまして木の実も震え色は深まる。

冬の夢にセットしてくれ。
君は雪うさぎのような白いセーターに身を包み、程よく形を整えた尻尾を、どうしようもなく大きくなった丸い重みの上にそれは申し訳なさそうに乗っけていた。いいんだろ? 触ったって。そのもさもさした触感をこの手のひらで味わったって。

僕はもう随分と長い間この無機質な消毒臭いベッドの上に横たわっている。動くのは頭の中だけで、体は植物のように何も感じていない。管を通して水さえあれば魚のようにはなれないけれど、静かに欲情することだってできるんだ。君がそばにいてくれる限り。ずっと前から、君がいてくれたことを頭の奥の方でうっすらと思い出しながら。ずっとその手を離さないでいておくれ。そのぬくもりを感じていられるのなら、もうこのまま夢の中で浮かんでいるよ。心だけは君のそばに残して。






今回はこちらの企画に参加しています。

淡い夢と現実的なヴァーチャルのお話。
さて、あなたは今どこに?



あはん♥




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