見出し画像

赤い肌

夏にも冬にも顔が赤くなるのです。夏は太陽が私を照らして、公園の木陰で休んでぼうっとしながら、木が太陽のおかげで酸素を吐き出している真下で、汗をだらだらと流すことになります。その時の私の惨めな赤さときたら!氷が水になるように顔が少し膨れて(汗をかくと物事というのは膨れるのでしょうか)、とにかく顔が真っ赤になるのです。冬には寒さで顔が凍えて、周りのみんなのように鼻がうっすら可愛らしく赤らむだけならまだしも、頬がこれまた膨れ上がり、鼻は赤みを通り越して茶色がかり、顔面全体が真っ赤になるのです。
意気揚々と春を迎えた名も知らない花たちが、まるで初めて自慰を覚えた思春期真っ只中の男女のように、花粉を散らすものですから、私の顔はやはり赤くなっていきます。秋なら大丈夫なのかと問われれば、どこかの車や窓のサッシを造っている工場から、あれよあれよと化学物質が空中を舞うものですから、やはり顔が赤くなります。どうにも私が住む地域では、秋の中頃まで化学物質は活発らしく、それが収まるころにはも寒さが海の彼方からやってきます。
ところで、彼は酔っ払った勢いで、私の赤くなる顔が好きだと告げました。特に、セックスをする時に赤くなるのがたまらないと。
春には近所の瀟酒なレストラン、夏には木陰の涼しい公園、秋に夕陽を見に行った海、冬には遊園地の観覧車で時間を過ごした、彼がそう言ったのです。
その時、私は今までで最も顔を赤くしました。彼の向こうにある全身鏡を見てみると、首まで真っ赤になっていました。彼は、季節が巡り肌を赤くする私の横にいながら、私の肉体を消費することしか考えていなかったのです。
私は、赤鬼になりました。情けなさと悲しさと、それよりも大きい怒りに身を預け、彼に怒鳴りつける私をどこか遠くから眺めていました。彼が気に入っていた白いワンピース、タイトで少しフレアラインがついた私の白い一張羅を身に纏うのは、紛れもない赤鬼でした。全身を真っ赤に染め、顔はもはや青紫のような色になっていました。罵声を浴びせ、細い腕の筋肉を目一杯使って、彼を部屋から追い出しました。その時ふと我に帰り、改めて全身鏡を見てみると、やはり赤鬼が立っていました。白い服とコントラストを描く私の身体は、もはや人間のものではありません。
とうとう、私は私自身からも疎外されてしまったようです。
我を忘れて家を飛び出て、近所の川に飛び込みました。私は水の流れを感じながら、身体の火照りが収まるのを待ちました。
ふと意識を取り戻すと、私はどうやら溶けてしまったようで、河口のあたりで海に流れ出ようとしている真っ最中でございました。自分が流れていることを感じながら、その時はじめて周囲になじめたような気がしたのです。