コブラヴェルデの圧力

ちょっとしたご縁で目黒シネマの招待券をもらい、現在ヴェルナーヘルツォークなる監督の特集をやっていることを知り、香ばしそうな作品群が並んでいたので見に行ってみた。

コブラヴェルデを見た後、ありえない角度で心に刺さってぬけなくなってしまった。

美しい映画だ、シネマティックだ。

一番印象的だったのが最後のシーン、奴隷の少女たちがこちらを試すような目つきで、しかし口元には笑みを浮かべながら歌い踊っている。大きな展開はなくただ同じ流れを繰り返す彼女たちの歌。そのシーンが、見ている者に対して「こちらは理不尽な状況下でも真っ直ぐ楽しく生きているだけなのに、なぜ勝手に罪を犯してそれから逃れようと苦しんでいるのか」と言葉なしに語りかけているように感じた。映画を見ている人が主人公のように奴隷制度に加担した白人ではなかったとしても人類の歴史のひとつの過ちを、時代と人種を超えて後悔させるような明るい突き放しが感じられた。事実私は彼女たちが踊っている間ずっと犯していない罪に苛まれるような苦い感覚に襲われて目を背けたい気持ちすら生まれた。

私はこの映画を見るまでこの監督のことを知らなかったし、自分が好きなジャンルでは無さそうという先入観を抱いていた。しかし結果的にその世界観に圧倒され呼吸を忘れスクリーンから放たれる圧力のようなものに体は椅子に押し付けられていた。映画は自分が美しいと思うものを磨いて守っていくためのもの。わたしはこの映画が好きだ。

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