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ベルリン、ベルリン

音のせいなのか
明かりのせいなのか
立ちこめる煙のせいなのか
ウォッカのせいなのか
全ての輪郭が消えていく

ダウンビートにのって
深く 深く 沈み込んでいく
 ダウン ダウン ダウン
背後から絡められる手の行方は
知れている

ここじゃない
君でもない

大きく揺らされたライトが
人々の頭上を行き来し
横揺れしながらリズムを刻む
誰も彼もがなにも見えていない
薬売りはトイレの向こう

 ダウン ダウン ダウン

腰に絡められた手を跳ねのけて
煙をかきわけて
出口の先にみえるのは
ネオンで白光りした夜

ねずみたちが踊る街
駅はそう遠くない

プラットフォームでは
誰かがバッハの調べを奏で
その傍らにはホームレスが寝そべっている
靴のない女がコインの入った瓶を鳴らしながら
煙たがる人々に向かって順繰りに歩き回る
遠くから黄色い電車が乗り込んでくる音が響き
僕と君と彼女は
この不条理な世界で 行き先の正しさを
尋ねることしかできない
誰かがそれを正しいと言っても
それを信じることすらできず
重くなっていく瞼をこすりながら
僕たちは とりあえず その黄色い電車に乗ることにした

階段を上ると 薄暗い朝がやってきていた
日曜の朝だというのに
まだパブで酒を飲み続ける男たちを横目に
パン屋の女将が店をあける準備をせっせとする
パンを買いたいといったが
女将はお前たちに売るパンはないという
僕たちは 仕方なく
世の中の仕組みだとか
世界の気候変動や食糧危機だとか
なにひとつ影響できないことを
話しながら街を彷徨いつづけた

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