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多国籍なロンドン、留学をして建築との向き合い方が変わった

ロンドンの大学院に進学するべく、スーツケース1つで渡英した2010年の夏。
今でも建築設計の仕事を続けているのはこの留学が大きく影響しています。

学部3年生の設計課題で自分は設計に向いていないのではと挫折を味わい、大学院には行かずに就職を決めました。
内装設計施工の会社に勤めるも、このままの人生で良いのか悶々とする日々。
やっぱり建築設計をしたい、環境を変えたい、と思いロンドンへの留学を決意しました。

13年も前の事ですが、その時のことを改めて書き留めようと思います。

◯ 多国籍な修士課程

イギリスの修士は1年コースが多いですが、建築士の資格をとるためにはRIBAに認定されている2年コース RIBA Part2)を受ける必要があります。
当時私はイギリスで働くことまで考えていなかったので、日本で言う修士課程(MA)として、1年コースに入りました。

イギリス人のほとんどは2年コースにいって建築士を取るため、MAコースは全員外国人。
イタリア、フランス、韓国、デンマーク、南アフリカなど、私のコースも15人中全員が外国人と多国籍でした。
年齢も学部を卒業してそのまま進学した人や、一度母国で仕事をして辞めてきた人(私も含めてこのタイプが一番多い)、子育てが落ち着いて再び学びに来た人など様々です。
今でこそ日本でも年齢関係なく大学に行く時代になりましたが、当時は45歳の女性が新たに勉強する姿勢に良い刺激を受けました。学ぶチャンスはいくらでもあるということを教えてくれた一人です。

この15人が集まった修士課程コースは、主に論文を進めるためのクラスで、設計課題やその他授業はRIBA Part2の生徒たちと一緒に受けます。

※MAのコースも歴史や都市計画など様々。私が受けたのは 「MA Architecture and Interior Design」というコースでした。

◯ 小さなスケールから始める設計課題

設計課題は内部の教授や外部の建築家による13unitから選びます。

わたしは宗教のるつぼでもあるロンドンならではの、宗教建築や教育施設を実務で設計をしている建築家のunitにしました。

小さなスケールから徐々にスケールアップをして敷地を読み取り、要素や活動の集積で全体の構成をしていく設計アプローチ。
子供のための free school を建てるというのが最終課題でしたが、途中の課題はインスタレーションや遊び道具をつくるという、一見、直接設計に関係なさそうなものでした。

チューターの口ぐせは「talk to people」
週に2回あるエスキスでは、毎回「talk to people」と言われ、住民の声を聞いてエリアの特徴を読みといていくことに重きをおいていました。
この読み解いていく過程が、確実に、設計をするうえでの説得力になります。

インスタレーションをした時に声をかけてくる人の様子や、遊び道具を作ったときの子供と大人の反応の違いなど、のちに設計にいかされているのが実感できました。

◯ 建築との向き合い方が変わった

当時の日本の大学では奇抜なデザインやアーティスティックな建築デザインが評価されていて(これもチューターによる)、自分が設計した建築物を「作品」と言うことにも違和感を持っていた私にとって、このアプローチは目から鱗でした。

これこそ建築の設計過程の本来の姿だ、と。

学部3年の時に味わった「挫折」は、狭い世界でのできごとで、建築設計の面白さの醍醐味をロンドン留学で再確認できました。

多種多様な人が集まるロンドンは、人や物に対して寛容です。
特定の価値観で物事を見たりするのは適切ではない。だからこそ、いろんな人の意見を聞いて柔軟に受け入れることは、当たり前のことですが、実践できている人はなかなかいない気がします。
移民を受け入れてきた国だからこそ、「いろんな考え方がある」という前提が根付いているのではと思います。

それはエスキスでも伺えました。
まず、誰一人としてダメ出しをしない(日本ではチューターの好みに左右されていた思い出)。
相手の考えを受け入れて良いところをまず褒める、でも改善した方がいいことはきちんと伝えます。

この手法は今でも私に染み付いていて、後輩との仕事でも意識していることです。

留学自体は、慣れない英語でかなり苦労しましたが、学生時代で一番建設的な設計課題でした(今でもそう思います)

私のように、一度建築の意匠系を諦めた人でも、設計アプローチは自分に合う方法にいくらでも変えることができる、と知ってもらえればと思いnoteにしました。

小さなスケールから徐々にスケールアップする設計課題に関して具体的に書いていあるnoteはこちら↓


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