見出し画像

なぜ『ちいかわ』が人気なのか?

SNSから一大ブームを巻き起こした「ちいかわ」。なぜ、若者が熱中したのだろうか?

ちいかわにどうしても共感できず、ブームに乗れない筆者が、客観的目線から理由を探ってみた。ちいかわが流行った理由の分析は多数行われているが、本稿ではマーケティング要素の4Pのうち「Product」に着目した。
その結果、時代の共感を集める人気キャラクターは変遷しており、現在は「第三世代」にあたるのではないかという仮説を思いついた。

頑張っても理解できなかった「ちいかわ」人気

近年、爆発的な人気を誇る「ちいかわ」。
SNSを開けばちいかわの関連情報がタイムラインに流れてくるし、町を歩けばコラボ企画によってそこかしこにいる。20代女性である筆者の周りにもファンがいるようだ。

流行っているものはとりあえずチェックしておきたい!というミーハーな筆者であるが、実は、どうしても「ちいかわ」の良さが理解できない。
たしかに、かわいい外見であると思う。
しかし、ストーリーの起承転結が浅いうえに、キャラクターのボキャブラリーは貧弱だ。加えて、キャラクターの「弱さ」を前提としており、ぶりっこみたいなLINEスタンプを見ると、何とも言えない気持ちになった。

理解できない理由を探りたい!

だからといって、「ちいかわ」を否定したいわけではない。私と世間(特に若年女性)で、どこかにずれが生じている可能性があるわけだ。このずれがなぜ生じているのかを深堀してみた。

やさしさがある世界へのあこがれ=「ちいかわ」人気

そして、アニメや漫画などのコンテンツに触れているうちに、左脳では「優しい関係性に癒されることが主目的である」と僅かながら理解できるようになった。SNS等でのコメントを見ると、キャラクター示すやさしさの描写を読者は探し出し(読み解き)、そこに癒しを見出していた。

他方、右脳ではやっぱり理解できない。しかし、段々理由がわかってきた。
「キャラクターのやさしさに癒される」のは、そのような「やさしさ」を自らが求めているから、その関係性に憧れを抱くためである。自らの辛い体験に重ね、そのやさしさがある世界に強い「共感」を覚えるためではないか。

余談だが、この武器の形状から、「虫歯菌のキャラクター」だと当初は思っていた

「ちいかわは人気キャラクター第三世代」仮説

なぜ、人々は「ちいかわ」の描く世界観に「共感」するようになったのか。
この裏に、人気キャラクターの変遷とその理由が関係するという仮説を思いついた。

筆者の仮説を図で示すと、下記の通りだ。以下で世代ごとに説明をする。

人気キャラクターの変遷

①第一世代(昭和):王道&かわいいがテーマ

まず、キャラクター勃興期を見てみよう。当時の人気キャラクターは、かわいく、かっこよく、まっすぐで、仲間に囲まれる「主人公」を描いていた。
経済成長期において人々は明るい未来を信じ、社会も発展した。その中で、自分の人生は前進を続けていることから、さながら「王道物語の主人公」であった。
そのため、人々は王道であり、キラキラした主人公に憧れ、共感することが出来た。

漫画で言うと、このような王道の「努力→勝利」型

②第二世代(平成):自分のダメなところを受け入れたっていいじゃない

しかし、バブルがはじけ、失われた30年に突入する。もはや人々は明るい未来を信じられないし、努力したって報われない社会が到来した。
すなわち、「自分はキラキラした主人公になれない」ことに人々は気づいてしまったのだ。

主人公になれないことから、人々は努力する意味を失う。(所謂ジャンプの「友情・努力・勝利」が成立しなくなる)
そこで、「がんばらなくていいじゃない」「自分のダメなところを受け入れて、生きていこう」「王道主人公でなくてもいい」という(後ろ向きな?)メッセージに共感することで、人々は生きやすくなったのではないか。

聖人だって立川でゆるく生きる時代に

③第三世代(令和):ダメな人間だけど、現実を頑張って生きている

前述の通り、失われた時代の中で「自分は社会の主人公にはなれないし、なる気もない。すみっこで暮らしたいし、だらだらしていたい」という気持ちが出てきたが、果たして一体何人がそれを実現できるだろうか。ほとんどいないだろう。
それでもなお、多くの人は、生きるために毎日必死に活動しなければならない。
社会の閉塞感や未来への展望の暗さに加えて、人によっては不安定や職業や複雑な人間関係(家庭や職場など)を抱えるこの「生きづらい」世の中で、頑張っても成功できないし、そもそも頑張るモチベーションもないが、でも働かなければいけない。

このフラストレーションを抱える人々に、第三世代が刺さったと考えられる。

第三世代には、「ちいかわ」のほかに、「おぱんちゅうさぎ」も代表作として挙げられよう。いずれも、ちょっとかわいそうで辛い世界の中で、精一杯生きているキャラクターである。この「不憫さ(かわいそうさ)」と「応援したくなる」がキーワードとなる。

おぱんちゅうさぎ

なお、「こうぺんちゃん」に関しては、不憫さはないものの、「必死で生きている不憫なLINE相手・本人」を励ます目的で作られているので、同種と言えよう。

結論:「ちいかわ」人気は「日々辛いけど必死に生きている人」の共感によるもの説

以上のことから、人々はキャラクターを通じて、自分の人生を肯定したいというモチベーションを抱えている。そのため、キャラクター人気にとって重要となるのは、当該キャラクターに対する人々の共感である。

「ちいかわ」「おぱんちゅうさぎ」等の近年のヒットコンテンツは、不条理な人生を送っている人々に対して、共感を呼び起こし、彼らを癒すツールとして受け入れられた。

「生きづらさ」と「ちいかわ」好き度合いは相関関係?(仮説)

最後に、なぜ同年代に生きるはずの筆者が「ちいかわ」にハマらなかった(なお、「おぱんちゅうさぎ」も同様に理解できなかった)のかを考察した。
仮説の1つとして、当該ファン層が抱える「生きづらさ」が、比較的少ない環境にあることが挙げられる。(例えば、正社員であり、努力すれば昇進が可能)周囲の同様の環境にある方々へのヒアリングでも、「ちいかわ」への共感が少なかった。

SNSを見ると、「ちいかわ」は夜職の方々への人気が高いように思われる。夜職はストレスが溜まりやすい仕事であることに鑑みると、「ちいかわ」ファン度合いと、「生きづらさ」に相関の関係があるかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?