昏いくらい、Cry

人間が絶滅した、いや正確に言えば一人を除いて

少女は廃ビルのn階の一室の隅で蹲るように泣いていた


きっかけは一瞬だった

少女がくしゃみをしてしまったのである

そのくしゃみは核融合並みのエネルギーをもち、半径4万キロにある森羅万象をすべて吹き飛ばした

中心にいる彼女は無事だったが。

あとにのこったのは廃墟、闇、そして何も残されていない人生


彼女は後悔をした

まさか、SFでもあるまいし、くしゃみで人類を滅ぼしてしまうとは。まぁ正確には一人を除いてだが。


お父さんもお母さんも、弟も可愛がっていたペットのリータも

全部消し飛んでしまった。

あの威力だ。遺骨さえ残っていない。


「…ごめんなさい」「…ごめんなさい」

少女はずっとこうして地上からかろうじて飛び出たビルの残骸の一室で
毎日懺悔の詩を刻んでいる

謝ったとしても何も変わることはないのに


少女は寝るとき以外はこうして何かに謝っているのだ
食事もとらない。トイレにもいけない。

少女の頬はやせこけ、服の表面からあばら骨が飛び出しているのが見えるほど痩せている

もちろん便は垂れ流しだ


「…ごめんなさい」「…ごめんなさい」


彼女は泣きじゃくり、声にもならない声で呻きながら謝っている

胸もきりきりと痛みだす

ごめんなさい。ごめんなさい。と


刹那、彼女にうまれてから体験したことのない感覚が起きる。

不思議な感覚。胸のあたりがキリキリとし、今にも何か飛び出しそうだ。

震える体、頭を抱えて懺悔を呟く少女。…そして


「…ヒック」


刹那、すさまじい吸引力が彼女の周囲に働いた。

ぐおおおぉぉぉおおと音をたて、彼女を中心として宇宙のはじまり、「ビッグバン」に負けず劣らずのすさまじい重力が発生した。
まるでブラックホールのようだ


…彼女が顔をあげると、そこは見知らぬ家の一室だった。


「あなたは誰?」
見知らぬ女性がいぶかし気にこちらを覗く

「…え?」

「ママ―怖いよー」
奥には怖がっている幼稚園生ぐらいの男の子


「…警察呼びますよ?」
少女に母親らしき人物が問う


「…ごめんなさい。」
少女は母親と子供を脇目に猛ダッシュすると勢いよく玄関のドアを突き破り
外に出た。

「…ちょっと待てやあああ」
母親が追いかけてくるがお構いなしだ

少女は内心の焦りとは裏腹にどこか嬉しそうだ。

ドアを締め切ると少女はニヤッと笑った。
ここはビルの9階あたりであろうか。



「…まさかそんなことが起こるなんて。。」

少女はくしゃみで破壊した街をしゃっくりで完全に修復させた


爆散で死んだと思っていた人たちは、宇宙に放り出され、奇跡的に生きていたのだ。


それにしてもなんという確率であろうか。

少女は嬉しそうに嗤うとビルを抜け出し自宅の方へ戻ろうとする


あ、睡眠とってないから急に眠たくなって…

少女はまたもや、今まで体感したことのない感覚を味わう。

口に手を当てると、溜まっていたものがあったのか

「あ~あ」とあくびをした


その後どうなったのかは筆者も知らないところである。


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