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ホットサンド記念日

数日前に食べたホットサンドの音が、まだ耳に残っている。その日はお昼頃に美容院を予約していて、それまでの微妙な空き時間、気になっていた近くの喫茶店に入った。

お家の一部を改装して作ったようなこぢんまりとしたお店。気持ちよく晴れていて、空の広い住宅街でさわやかな佇まいをしていた。入ると近所のおじいちゃんおばあちゃんが集まって談笑しており、「さっぱりとしたおじちゃん」という印象のマスターが厨房から眺めている。私は厨房前のカウンター席に座った。

メニューはネットにも情報があり、ホットサンドが私のお目当てだった。少し歩いただけなのに汗をかいてしまったので、飲み物はアイスコーヒーにした。

しばらくしてそれらが私の手元に置かれた。ウエットティッシュで手を拭き、三角形にカットされたホットサンドの角を早速口に運ぶ。

カリカリカリッ。と、「美味しそうな音」のお手本みたいな音がした。注文をしてそれが届くまでの間、私はホットサンドのイメージを頭の中に浮かべていたけれど、そこでは「音」が抜け落ちていた。こんな音がすると思っていなくてビックリした。その音とともに何か新鮮な光が入ってきたような気さえした。晴れた日に遮光カーテンを勢いよく開けたようなあんな感じ。

あんことバターの包まれたそれを、何度も良い音をたてながら食べる。この音を聞けたことがとても嬉しくて、マスターに伝えたかったけど、感染症対策のことを気にしてしまって言えなかった。食べ終えてマスクをし、お会計のときにようやく「おいしかったです」と言えたけど、本当はもっと話したかった。「ありがとうございます。恐れ入りますっ。」とマスターは言った。

私は晴れない気持ちを乗り切るためにお菓子などを買ってしまうとき、なるべく食べたことのないものを買うようにしている。新しい出会い、何かにハッとする感じが自然と気分転換させてくれるからだ。ホットサンドを食べたその日は気がかりなこともなくむしろ気分のいい普通の休日だったけど、あの音が、とても素敵で特別な日にしてくれた。何でもない普通の日だけど、きっと忘れない特別な日。それってとてもいいものだと思う。

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