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秋田・田沢湖でグアテマラを思い出す

なぜ田沢湖に行きたくなったのか覚えてないけれど、なんとなく素敵な名前だったから、晩秋のある日に一泊した。

田沢湖駅に到着したのは夜7時。民宿のおかあさんが迎えに来てくれた。
おかあさんは腰がぐいっと曲がっている。何十年も働いてきた証拠だろう。80歳近くの彼女は田沢湖の生まれで自分のことを「オラ」という。

民宿の戸二重戸を開くと、石油ストーブのにおいが漂ってくる。どこかのお土産らしき置物が並ぶ玄関で、思わず「お邪魔します」とつぶやく。

おかあさんの作る夕ご飯は素朴でとってもおいしかった。キュウリの佃煮は甘辛くてトロトロしていたので、思わず作り方を聞くと「夏に沢山とれたものを3日かけて煮るんだよ。普通じゃできないよ」という。きっと大鍋にたっぷりキュウリを入れて、焦らず、じーっくり煮るんだろうな。

鍋物は椎茸出汁にゴボウ、鶏肉、セリ、かまぼこ、きりたんぽが入ったもの。きりたんぽは自家製で、まだ米の粒が残っている。噛むほどにじんわり甘い。いぶりがっこも自家製だそうで、燻製の匂いが柔らかく、程よい塩気でご飯が進む。

何もすることがない(というか、暗すぎて外に出るのが怖い)ので、早々に就寝。翌朝は早起きして田沢湖まで歩いた。

透き通った湖を見ていると、グアテマラのアティトラン湖を思い出す。そこでの移動手段は小型船で、カラフルな装いの先住民たちが大きな荷物を持って船に乗ってくる……そんな景色を思い出し、ふと昔は田沢湖でも岸の反対側にいくために、船が使われていたのだろうかと思う。そうだったら面白いのにな。

その日は電車に乗って次の目的地に向かった。正直、湖を歩く以外することがなかったからだ。でも不思議と、ここが桃源郷っていうんだろうなという印象が残った田沢湖。また、お母さんのご飯と湖を目当てに行くかもしれない。その時までお母さんが元気でいてほしい。

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