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聖域のベルベティトワイライト

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一次創作小説。ファンタジーものです。 ある程度書き溜めたら随時更新していきます。
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記事一覧

聖域のベルベティトワイライト (15)

計画遂行  今朝は、寝覚めがとてもいい。フェリ王子とルーに徹夜を禁じられて睡眠時間がいつもより長かったからなのだろうか。お陰でいつもより早起きだった。それに最近夢で聞こえてくる女の人の声も今日は感じられなかった。ただ…昨晩寝た時と今朝起きた時の方向が真逆なのには、自分でも思わず声が出てしまうほど驚いてしまう。 「私…今まで寝相は、そんなに悪い方じゃなかったはずなのになぁ…」  実は、覚えていないだけでこっそり夜中に起き上がり、勉強をしていたのではないかと机を見ても参考書に

聖域のベルベティトワイライト (14)

音貌  湖での出来事でアルテリア姉様の外見の成長が止まったあと、緩やかではあるが確実に時は過ぎ、やがて成人を向かえたエレシアス姉様が代理として父上に付き添い公務をこなす様になると、その美貌と才能はあっという間に王都…そして国を超えて隣国まで届く様になった。  エレシアス姉様も強力な魔力を保持しているとはいえ、アルテリア姉様や僕と比べると劣ってしまうので王族に生まれた『姫』としていずれ隣国に嫁がねばらない。父上は、温厚な性格なのでその気になるまでは待ってくれている様だけれど『

聖域のベルベティトワイライト (13)

貴人の胸宇  コツコツ    広い廊下に靴音が響く。  城内は、とても広いので一人ではまだ出歩けない。  今から向かう先は、エレシアス様のお部屋がある領域だ。   「リズは、此処から先は初めてだったかな」 「はい、なんだかとても華やかですね」    フェリ王子の区画も綺麗なのだけれどエレシアス様の区画は、別の意味でとても華やかで嫌味ではない仄かな花々の香りに満ちた空間なので若い女性の使用人が憧れる配属先というのもわかる様な気がする。多分、此処に居るだけで自分もお姫様になった

聖域のベルベティトワイライト (12)

  感触  転送装置を使い、急いで城まで戻ると使用人たちが忙しく動き出す直前だったので其々が羽織っていたローブやルーの荷物は全部引き受けて二人にはいつものルーティンに戻ってもらい、僕は何事もなかった様に自室に入り事なきを得た。  それにしても今日は、色々出来事があり過ぎた。  城下の食べ物を初めて食べたり、商業区の様々なギルドや商店を見て周り、居住区の人々と話をして活気を体感できた事。…そしてルーが、休暇明けの使用人から城下の話題を聞いていなかったらきっとあの人と巡り会

聖域のベルベティトワイライト (11)

 邂逅遭遇  城下の守備隊駐屯施設にある隠し扉を抜けると其処は、各居住区に通じる通路になっていた。 「此処は、貴族の区画と商人や平民の住む区画の丁度中間地点になっていてね、お忍びをするにはもってこいの場所なのだと昔、姉上たちが教えてくれていたんだ」  現在お二人は、心配する国王や大臣たちの目が厳しくなったので公務としての外出しかしていらっしゃらないらしい。だから『公務』である結界の巡回の時は、あの様に羽目を外されているのだと察した。 「先ずは、食事にしよう」 「ちょっと待っ

聖域のベルベティトワイライト (10)

支度 「大まかな内容は、ルシエルから聞きました。私の方は、何も問題ありません。貴方の好きな様になさい。リズリエットから良い返事をもらえたらドレスもこちらで手配しましょう。その時は、好みのモチーフなどをしっかり聞いてくるのですよ。私とアルテリアお姉様で最高の一品を仕上げてみせますわ」 「ありがとうございます。姉上」  エレシアス姉様は、多分反対しないだろうと思っていたが、こんなにあっさり返事がもらえ、しかもかなり乗り気なのには驚いてしまった。しかも…よくよく聞いてみれば、あ

聖域のベルベティトワイライト (9)

 黎明  使用人でも利用が出来るライブラリーは、私にとってキラキラした宝箱に見える。但し、文字はこの国のものなので今のままでは殆ど読む事なんて出来ない。だけど幸いな事に私が暮らしていた国とさほど遠くない文法だという事をルーから教えてもらったので私は時間がある時にこのライブラリーに通い、借りても大丈夫そうな本は部屋に持ち帰り、寝る前に少しでも学んでいずれ一人で読める様になりたいと決意を固めた。  それにしてもお風呂の件。妖精は性別が無い生き物なのだと頭では解っていてもやっぱ

聖域のベルベティトワイライト (8)

 一計  今日は普段はやらない事を朝からしていたからなのだろうか…お茶の時間が終わった後、夕暮れあたりから本を読んだまま寝ていたらしい。  直ぐに起こしてくれればよかったのにとルーに言うとリズに「お疲れみたいなのでこのまま寝かして差しあげましょう」と言われたんだよと聞かされたのでそれ以上何も言えなくなってクッションに顔を埋めた。 「…そういえばリズが居ないけれど」 「あぁ、フェリが寝てしまってから使用人も入れる方のライブラリーに案内してお互いの国の読み書きを教えあったりし

聖域のベルベティトワイライト (7)

  蒔かぬ種は生えぬ 「ルーに付いていって良いですか?」  屋外にある設備をある程度教えてもらい戻ってきた頃には西陽が傾き出し、フェリ王子が、丁度良いからお茶にしようかとルーに声をかけていたので出来る事を少しでも増やしたいと思い、私も付いていきたいと切り出してみた。 「いってらっしゃい」  王子は、にっこり微笑んで送り出してくれ、私は今ルーと一緒に台所の前まで来ている。扉を開けると数名が今夜のディナーのための仕込みをし始めていた。ルーは、その中で手が空きそうなメイド

聖域のベルベティトワイライト  番外編1

noteで会話形式の記事が作成可能になったという事で不定期で更新している一次創作(小説)「聖域のベルベティトワイライト」のキャラ「フェリシオン」と「ルシエル」にこの小説の世界観、補足などを語らせてみたいと思います。 ※ネタバレ的要素が含まれますので小説を読んでからこの記事を見ていただければ幸いです。 フェリシオン(フェリ) ルシエル(ルー) 聖域のベルベティトワイライト ー出会い編補足ー まず大まかな世界設定などを語っていこうと思います。 この小説の人間界についてです

聖域のベルベティトワイライト (6)

城の日常  リズの為の個室とアミュレットを作り終えた頃には正午になっていた。 「二人ともお腹空いてない?」 「もうそんな時間になってたのか。色々と集中していたから気が付かなかったな」  いつもの様にルーに頼んでここに配膳して貰おうとしたが、折角なので今日は使用人用の食堂に足を運び食後は城内の案内をしようと閃いた。こういう事は、僕のヴァレット(従者)であるルーに全部任せても良かったのだけれどリズは黒髪で…その上、異国の…そう人間なのでどうしても目立ってしまう。  彼らから

聖域のベルベティトワイライト (5)

アミュレット  魔法の力を見たのは、命を助けてもらった時と今回の私の個室作りで二度目だけれど本当に凄い力で目の前で展開される現象に魅入ってしまう。  指定の場所に出現した個室は、壁面の一辺を見る限りでは狭そうに見えるのだけれど中に入るとかなり奥行きがあり、かつて自分が住んでいた家の個室より広く、年頃の女の子が欲しいと思える家具がひと通り揃えられていた。  お二人の説明では、その空間に従来無かったもの…しかもある程度の大きさの質量を創り出し長期的にその形のまま維持させる事

聖域のベルベティトワイライト (4)

魔法の力 「リズってさ、誕生日って何月?」  朝食が済み、お茶を頂いている最中にルーが唐突に質問するのでリズがポカーンとした顔をしている。  そりゃそうなるだろう。ルーは、コミュニケーション能力が有るのか無いのか僕には計りかねる。 「ルー、ものには順序というものがあるだろう」 「初日にプロポーズしたキミが言う?」 「だから、あれはそう言う事じゃ無くて!」  僕とルーのやりとりが彼女のツボにハマったのか直にクスクスと笑い声が漏れ出した。 「えっとニ月です」 「へー、ちょっと

聖域のベルベティトワイライト (3)

初めての感情  人から好意を持ってもらう事に対して悪い気はしないが、それが積極的すぎるというかしつこく強引に自我を押し付けられると気が滅入るというか…好意の向こう側にある本当の真意が透けて見えていつしか気持ち悪さを感じる様になり、そこから他人との接触は最低限の事以外は出来るだけ避ける様になった。  幼い頃は、優しい姉や兄がフォローしてくれたが成人になり末っ子とはいえ一国の王子である以上これから隣国のエルフとの外交にも参加しなくてはいけないのでこの人見知りはいずれ克服しなけれ