私小説、フィクション

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    愛と渾身のうらみ

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月のもの

夜の散歩、風はひんやりしてる。生理前の内臓が熱をだしたような気持ちの悪い体温が、夜風にすこし逃げて、嫌なことぜんぶ手放せそう。ふくろうずと踊ってばかりの国とRadioheadがあれば当分だいじょうぶだと思ってるわたしはたぶん平気じゃない。エネルギーがいろんな方向へ散っていく。どんな人がタイプかとかどうでもいいから、忘れられない映画とか何かしら食いながら泣いた日のことを教えてほしかった。 もう何も私のものになることはないとわかっているから、とても素直でいられる。なにも持っていな

    • 4月、5月

      4月の終わり 今日は元恋人の誕生日だった。考えないようにしていたことがなんだかくやしいけど、携帯のパスワードだったこの四桁を忘れることよりも難しいことはおそらくないだろう。彼を愛していたからこそ好きになったものがたくさんある。それらは皮肉にも綺麗な傷跡になっていて、別に気に入っているし、わたしはもう新しい世界で踊っている。同じ季節を、くりかえし過ごしたかけがえのない人の誕生を祝福しない選択肢はないのよ、いつか忘れてしまっても。 二十二を過ぎてからさびしさは悲しみじゃなくなっ

      • 星屑インターバル

        こんな秋の夜に、名字も知らない彼に連れられて大学の最上階のベランダで、たいしたことない夜景に見惚れている。不覚にも見入ってしまって、十秒ほどの沈黙が続いた。わたしはいつだってヘラヘラするようにしている。だって、沈黙のなかでは秘密を見透かされてしまう気がするから。 「ねえ。 ここからあのビルの屋上へ、パルクールしたくならない?」 ロマンチックすぎてふざけてしまった。 沈黙を破るために。 10月の夜は冷え込み、鉄製の手すりはひんやりしている。横にいる彼の温度が風を通して伝わ

        • Shittiest Xmas

          2021年12月25日 凍ったサン=ローラン川の上を走った。 積もった雪の中に向かってダイブした。 23時ごろ、道端でジャーキーを食べながら泣いた。 夜道の外灯がやさしく光っていて、腹が立った。 コンビニエンスストアに売ってるバナナの底が黒ずんでいて、舌打ちした。 誰かと出会うこと、優しくされることが以前よりも一段と増えて、誰かのことで傷つくこと、誰かとの縁が切れることも残念ながら当たり前になってきている。 こんなにも排他的なクリスマスは二度と無いと思う。二度といらない。

        月のもの

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          白河夜船

          22歳の秋、私は2年の外国暮らしを経てまた大学生になった。2年の間に、大学の図書館はガラッと姿を変え、花壇のデザインも大きく変わった。北側の食堂はもぬけの殻になった。400円の油淋鶏定食がとても美味しかったので残念だ。 頬杖をつきながら、授業の資料が映し出されているモニターのほうに目をやる。そのうしろに窓越しに見えるキャンパス内の木々が、秋らしい色に染まり始めている。黄色、橙色、まだ残る緑。彼と過ごした3年間の大学生活が蘇る。 長年付き合っていた恋人と、この上なくあっけない

          白河夜船

          ジンジャーハイボールに稲妻

          「酔っ払うと僕は幽体離脱して、脳みそを宇宙に置いてくる。そこから言葉を受信するんだ」 柊木くんは言った。 「わたしもそういう時あるよ。わたしは脳みそを海の底に沈ませる」 しまった、と思った。 油断して自分の秘密をぽろっと出してしまった。 ここでわたしが伏せた目の焦点を彼の瞳に持って行き、無理やり微笑んで見せれば、それだけでわたしたちはこれからお互いをずるずる引きずっていくのだろう。頻繁に会わなくとも、季節が街のにおいを変えるたびにどこかでそっと生活するお互いに思いを馳

          ジンジャーハイボールに稲妻

          Just a little bit more of my favorite loneliness

          お別れのときがやってきて、もう愛されなくなって悲しいのに、そんなのどうでも良くなるほどせいせいしている。このせいせいした気持ちが、秋風のなかわたしに耳打ちをする。慰められているような、咎められているような感覚のなかわたしはとぼとぼ歩いていく。やさしい洋楽を聴きながら。スイートポテトの作り方を思い出しながら。 盲目的に愛されてきた。でも彼らはわたしがどうして美しいか、どんなふうに美しいかを本当は知らない。わたしの魅力をわかっていない人に愛されてもそれは味のないスパイスのように

          Just a little bit more of my favorite loneliness

          トカゲ

          有料
          100

          いちご畑に埋葬して

          日常に情熱もなく、 「会社の人間はつまらない」 なんて言うつまらない人になってほしくなかった。 だからわたしは名城線の緑のシートにぼとぼと涙を落としている。二限から始める大学生で溢れる車両は、若者らしいどっちつかずな甘いにおいが人間臭さに混じっていて吐きそうになる。 大切だった人が変わってしまった。 これこそが失恋だと思う。好きだという相手への気持ちを失うことこそが、もう好きでいられなくなるこの悲しみこそが、失恋なのだと思う。 相手の気持ちなんてずうっとどうでも良かった。

          いちご畑に埋葬して

          帰国

          二年ぶりの金山駅、地下鉄、名古屋、たくさんの日本人と日本語。相変わらずの広告の多さにめまいがする。あのバンドマンはどうなったのかとか、あの人は今何をしているだろうかとか、私には外国のにおいが染み付いちゃってるのかとか、この女子高生は2007年生まれなのかとか、そういう考えてもキリがないことに頭を悩ませてはなんとなく、そんな日本での日常の幸せを噛み締めてるよ。金山駅のトイレはあんなに綺麗に改装されたのね!パン屋さんの位置は変わっていない。二年。たったの二年に感じていたけれど、結

          二年ののち

          日本を出国してから2年。 いろんなものを失った気がする。 失ったのだと思う。 でもその喪失感や悲しみをかき集めても文句ひとつすら言えないほど、とても豊かな2年だった。 文句ひとつすら言えない。弱音ひとつすら言ってやらない。 モントリオールで過ごした日々は美しくて儚くて、汚らわしくて悲惨でとにかく愛おしい。 これは、外国でその日暮らしで生きた人にしかわからない感覚なのだと思う。 ああ、2年ほど前めちゃくちゃ愛していた人たちは、わたしのいない日本を一度くらい退屈に感じてくれた

          二年ののち

          メキシコの砂浜で

          3カ国後を操るようになってから、頭のなかで考えることはだいたい英語になった。 メキシコの砂浜で、物思いに耽って、脳内の設定言語を日本語に切り替えた途端、日本で過ごした時間が、いや日本語で世界を生きていたときの記憶すべてがついこの間のことのように湧き上がってきた。なんだこれ、気持ちが悪い。二年という月日が経ち、それを自覚しているつもりでいたのに「日本語」でのわたしの世界、「日本語」でのわたし自身に向き合った途端に二年前の景色が昨日のことのように思えるのだ。心底むかつく。 海

          メキシコの砂浜で

          ムッシュ・詐欺師

          ビルという若い男に出会った。 どうやらお金持ちのようだが、彼のお仕事は主に「詐欺」である。 詳しくは書かないが、携帯に関わった詐欺をおこなって大金を稼いでいる。 身につけている高級な小物はすべて、詐欺をして手に入れたものだそう。十五分おきに白い粉を鼻から吸っては疲れ切った顔をしながら、無駄に室内に響く大きな声で、自分のことを語り続ける。 驚くことに、彼は彼のやっていることにプライドを持っているようで、全てを正当化しながら私に打ち明けてきた。 そんな彼の口癖は 「チック

          ムッシュ・詐欺師

          わたしは妹

          その日、姉は18時に仕事が終わる予定だった。前日に電話で「夜ご飯は作っとくから」と言ったら「なに、彼女ごっこがしたいのね」と言われた。ふっ。別に、料理の腕前を自慢したいだけ、と言い返したが図星だったな。わたしは運動会前日の小学生みたいにワクワクしていて、とにかく張り切っていた。当日は朝6時に起きてチーズケーキを作り、それをたくさんの保冷剤と一緒に持っていった。片道二時間。最寄駅に着く頃には、保冷剤からでた水滴が保冷バッグを通過して、わたしのふくらはぎにまで浸透していた。 駅

          わたしは妹

          アイソレート・マイセルフ

          「モン ロワイヤルまで歩いた。 僕はわからない。ふとした時にやって来ては、たちまち僕を圧倒するこの憂鬱に対処する方法が。これほど虚な気持ちになることは滅多にないけれど、むかしはよく経験していた、これは今朝、薬を飲み忘れたせいなんだ。外にでて、散歩したり運動したりすることで気分が良くなるようにいつも頑張ってる。これはただ、僕がハッピーになるまでの話ってだけ。あとこの動画は、今の僕がどう感じているかの視覚的再現だよ」 それは、2本のビール瓶の隙間を通り抜けて何もない壁をアップし

          アイソレート・マイセルフ

          ニュアンス・チェンジ

          さいきんは、いつもより夕焼けや夜空が美しいし、いつもより過激な夢をみるし、いつもより人のことが腹立たしいし、いつもより自分のことが嫌いだ。知らない人の表情のなかに一億通りの悲しみを見つけて、愛おしくなったり、苦しくなったりしている。田んぼの奥に広がる夕焼け、民家から漏れるあどけないピアノの音、一生関わることない家庭の夕飯のにおい、そういうのは美しくて愛おしくて、鬱陶しいほどわたしを揺さぶる。歩いていても、突っ立っていても、どこにも焦点は合わない。 バイト中、シフトがよくかぶる

          ニュアンス・チェンジ