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【エッセイ】バツの位置

次の就職先で働きはじめるまでに、りっぱなゴミ溜めとなった部屋を掃除することにした。行く度に買って使い捨てしてしまう夢の国のカチューシャや、読みはじめないので一向に読み終わらない本の山などあらゆるものに手を付けて、最後にクリアファイルから書類を出すと2ヶ月ほど前に添削を受けた履歴書が出てきた。

当時お世話になっていた方に、履歴書の添削をしていただいた。家で返却されたものを見ると、性別欄に書いた「女性」という文字に赤ペンでバツが書かれていた。

どっと、心臓のあたりが一度大きな物音を立てた。私はノンバイナリーを自認しているが、二人の友人にしかそのことを伝えていない。性別に関して話したことはないし、性自認に気づかれるような言動はしていないはずだ。Facebookの性別欄をわざと設定していないことから見抜かれただろうか。

そういえば、履歴書の書き方の記事に性別は記載しなくてもいいと書かれていた気がする。この履歴書にも記載は任意って書かれてる!性別は書かなくていいよということかもしれない。

いまいち腑に落ちない推理で自分を落ち着かせる。真意を聞かずに、私は性別欄から「女性」を削除した履歴書で就活をして就職先が決まった。

散らかった部屋で、性別欄のバツを改めて見る。赤色のバツの位置は「女性」の「性」の字にかかっている。

あ。これってもしかして、「女性」ではなく「女」だけでいいということ?

そう思って見てみると、大雑把なバツではあるが「性」の上に書かれたように思える。私は納得の気持ちとともに少しの落胆を感じた。

今まで気づいていなかったが、私は「女性」にバツをつけられたことが相当うれしかったらしい。自分が思っていない性を名乗らなくていいのだと思って。

個人情報を消すためのスタンプをして、バツのついた履歴書を古紙回収の袋に入れた。

おわり

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