見出し画像

エッセイ|某TV番組で紹介されたラーメン屋

娘から聞いた話が興味深かったのでシェア。

友人と深夜のドライブ中、どうしてもラーメンが食べたくなりふと立ち寄った “建物があまりにも古く見える店” でのこと。

良くいえば古民家。悪くいえば掘っ立て小屋。ちょっと躊躇したようだが背に腹は代えられないとドアに手をかけたが、まず開け方が分からない。

ああだこうだと友人と格闘して店内へ。店内はカウンターしかないようだ。さていざ座ろうとすると「おくから!おくから!!」と不愛想な店主が怒ったような声を出している。何のことだか分からなかったが「奥から座ってね」のことらしい。

二十歳そこそこの子にこれは怖かった。

もしかしてハズレのお店?でもすでに8人お客さんがいる。気を取り直し豚骨ラーメンを注文すると、またご新規が隣にきた。慣れた様子でラーメンを頼みんだかと思うと

「この店さぁ、めちゃくちゃクチコミが低いんだよねぇ」と大きな声で言うではないか。「店主、愛想悪いんだよなぁ」などと言い続ける。この悪口はしばらく続き、営業妨害かと思ったそうだ。

今度は団体客が来た。もうカウンターはいっぱい。すると店主が「おく!おく!!」「奥へ行って!」戸惑いながらもその団体は店主の目線の先へと進む。厨房を横切るように炊飯器のすぐわきを通り、どうやら座敷があるらしい場所へ進む。

ええ、まるで人の家の台所みたいじゃん…どうなってるの。

そしてその間も、隣の客の悪口は続いていた。
ラーメンがきてホッとする娘。「これでラーメンに集中すれば気にならない」。

気づけば隣客のラーメンもきて悪口は止まっていた。

さて支払いである。娘たちは電子マネーで払う気満々だったのだが、どうも現金オンリーのようだ。財布を持っていない娘と友人。こんな怖そうな店主にお金がないなんて言えない…いや、怖くなくても言い出せないだろうが、もう必死にかばんを漁る。

運の良いことに免許証ケースに千円札があって、冷や汗をかきながら支払った。友人の方は車にお金を忍ばせているという。ちょっと車にお金を取ってきます!というと

「なんだぁ?食い逃げかぁ?」
違います!すぐ戻ります!ダッシュする友人の背中に「二度と来るなよー」と声を飛ばす店主。

固まる娘に「置いていかれちまったなぁ」「まぁいいからいいから」と言い、友人が戻ると「なんだよ、戻ってきたのかよー」と怒ることなく会計を済ませたそうだ。

そこでふと気づいた。怖く見えるけれどそんなことはないんじゃないか?だって、まったく責める風ではなかった。悪口を言っていた隣の客も、常連だからこその軽口のようなものではないか?そして深夜に関わらず満席の店内。

頼んだ豚骨ラーメンは絶品というほどではなかった。それなのに若い客で賑わうなんて。

楽しそうに「あのね、“某TV番組で紹介されました”って貼ってあったよ」
そして続けてこう言った。

「味がどうこうじゃなくて、きっと頑固おやじさんの人柄が愛されているんだろうなぁ」と。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?