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狂おしいほど透明な日々に

池袋のカフェに1人で入ってとても美味しいレモネードを飲みながらこのアルバムを1曲1曲だいじに聴いたこと、ずっと忘れないでいたい。

1.ブルー

1曲目のブルーを聴いてすぐに、冒頭書いたことを思った。「ケロフォビア:幸せに対する恐怖症」人間名前がつくと腑に落ちてしまうものなのか、この言葉を知ったとき自分がことんとはまった気がした。ブルーはそんな自分にこの先を見せてくれる歌だ。嘘をついたり誤魔化したりすることを開口一番に否定するような短絡的な正義は、この歌には全く無い。捻くれたままで綺麗だと言ってくれる荻野さんに、背中をさすられているような気持ちになった。

2.かげろう

「~たら~たかもしれない」を2回重ねられるだけでここまで後悔の印象を強く受けるのだな、と思う。でもその後悔を振り切って走るように見えて、実は傍らに抱いて走っているような強さと脆さがかっこいい。「わざとこれでいいみたいな顔をしている」のフレーズとふわふわと笑う仲川さんの姿が重なり、おこがましくもさらに愛想笑いをする自分が重なる。そうやって過ごすことを正しいと思えて、泣きそうになった。

3.助かる時はいつだって

もっと苦しんでいる人がいようがあなたにはあなたの地獄があると認めてもらえることでどれだけの人間が自分の生活を認め、続けられるのだろう。言いようのない虚しさを特別にも邪険にも扱わず、そこにあるものとして捉えるところに寛容さを感じる。それに天才と凡人の両面を見て、苦しくなるほど憧れた。愛することをもっと身近に考えられる時が来たら、また違った聴こえ方をするのではないかと思う。

4.Cakewalk

あまり人前で泣かない方がいいと思っているけれど、人の多いカフェでぽろぽろと泣いてしまった。歌詞カードが涙でぼやけて、何度も見えなくなった。自分の言葉がこの歌に関わることが怖くて、歌詞と関係ない自分の話ばかりしたくなる。こんな人がいるなら人を信じてみようと思わせてくれた歌だけれど、自分がこうなりたいとも思う。どの立場で聴くかは置いておいて、仲川さんから私に届けられたお守りであることは確かだ。すごく大切な歌を受け取れて、嬉しい。この歌に関してはこれくらいしか言えない。

5.シャイニング

Cakewalkを一段上げるような言い方をした後だから少し決まりが悪いが、この歌も同じくらい私に手のひらいっぱいの優しさを与えてくれる歌だ。ひたすらに優しく肯定して、抱きしめてくれる。それだけじゃなくて、貰った優しさを誰かに手渡していこうと思わせてくれる。死にたい毎日はまともであること、その中に輝きを見出せること。影は影のまま光にも目を向ける歌詞をすごく美しいと思うし、その姿勢を尊敬している。再生ボタンを止めても歌詞カードを閉じても優しさが沁みてきて、涙が止まらなくなった。

6.stars

時速の中で1番抽象的で全てを包むような歌だと思う。歌い出しの歌詞がなかなか分かりづらくて、一曲を通しても憎悪なのか愛なのか分からない感情の存在を感じる。ただ、人を愛おしむ気持ちや今までに意味を見出す言葉たちをひたすらに綺麗だと思う。大きいことを歌っているようで、小さい世界の歌でもある。「歌詞なんて意味が分からないくらいがちょうどいい」と言う父の気持ちが少し分かるような気がする。なんとなく手を繋いでくれるような安心感は本当で、それだけで充分すぎるから。

7.化石

「なるべく」のような確定しない言い方をする荻野さんや仲川さんの誠実なところが大好きだ。臆病と言う人もいるかもしれないけれど、約束できない絶対を作らないのは謙虚で温かいと思う。自分や他人が何か望むことをやめさせない逞しさとは裏腹に、他人と関わりながら感じる孤独や忘却に抗えないことはそのまま受け入れる。悲劇すら起こらない悲劇を描く歌をアルバムの最後に置くところに優しさの中の鋭さを感じ、そういう現実的なところを信頼しているんだよなぁと改めて気づかされた。

このアルバムは、どの曲を聴いても自分の心に深い影響が残る。このアルバムだけでなく、時速の曲はどれでもそうだ。ただ感動したり、泣きたいほど温かい気持ちになったり、切なくなったり。しかし特にこのアルバムは本当に、いいアルバムだ!ありがとう時速36km!!

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