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アカシック・カフェ【3-1 アイスコーヒー・リーディング】

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□ □ □

よく晴れた、土曜の昼下がりだった。

「明窓館の…高等部、新入生か」
「え?」
「あっ」

……やらかした。普段からなるべく口には気を付けているんだが、今日はお客が少なくて気が緩んでいた。
注文を取りに来た俺に、口を開く前に素性を言い当てられた少年は、目を丸くし、そしてすぐ輝かせる。あーあー、嫌な予感がする。ご無沙汰の展開が来るぞ。

「……まさか、アカシックス!?」
「や、違います」

来た、聞いた、切った。一刀両断、いい加減慣れた。三十年近くアカシックスとして生きてきて身についた半自動カウンターは、過剰すぎない反応速度で「必死すぎるし逆に……?」とも思わせないそこそこの速度を誇る。
このご時世、「アカシックスですか?」「はいそうです」と言って得はない。アカシックス――全知に接続する、人知と常識の超越者であること――を軽々に認めるなんて、端的に言ってトラブルを生むだけだ。
それをわかってるのか、わかっていないのか。無邪気に訊くあたり、分かってないんだろうなぁ。少年はワクワクした様子で次の質問をする。

「ね、注文。注文わかります?」
「……アイスブレンド、L。あとクッキーでしょ」

俺は仕方なく、今度は反射でなく少しだけ考えて、答えてしまう。下手にはぐらかした方が、むしろまずい気もするからなぁ。
どうやら回答はお気に召したようで。いよいよ真っ直ぐに視線を向けてくる。はぁ、本当に高等部の一年か?明窓館付属小の一年って方がまだしっくりくるキラキラした目とリアクション。

「やっぱりアカシックスだ!」
「いや、違うんですってば」
「じゃあ、なんで」
「……あのねぇ」

思わずため息をついて、首を振る。夢を壊すようで悪いが、ここは徹底的に壊しておかないと、俺の――ひいては永愛の生活が壊されかねない。俺だけの問題じゃないから、手抜きはしない。
テーブルの上。一般的なノートに、俺自身はかなりご無沙汰な数式。この店は、あまり彼のような年齢層の客は来ないのだけれど、まぁごく普通と言っていいだろう。服装も然り、休日の少年だ。
では特異な存在は何か?指さして、文字通り指摘する。

「それ」
「ペン? ……あっ」
「それ使っておいて『なんで』はないですよ、お客さん」

彼のペンは私立明窓館学院の高等部、一年生進学及び入学時に配布されるモノだ。赤、黒、青、緑の四色ボールペンに加えてシャーペン付きの万能機。その軸には、明窓館の校章が描かれている。知らなければ「何かのマーク」でしかないが、俺みたいな知っている人間なら一目でわかる。彼は明窓館の学生(または卒業生、教員)だ。
ちなみに俺の頃は二色ボールペンだった。もう校章も擦り切れている。

「……でも、なんで新入生だって」
「そりゃ、木目調ですし」
「……?」
「知らない? それ、学年によってデザイン変わるんですよ」
「……へぇ」
「うちのバイトにも明窓館の生徒がいるんで、あとはカウントするだけです」

私立のご立派な学院だけあって、配布品だって高級だ。軸のデザインは俺の頃から連綿と続く黒塗り、銀、木目の三年周期。今年二年の永愛は銀。自ず、彼は一年生。とても三年間愛用したとは思えない綺麗さだから、卒業生とも思えないし。
端的に、淡々と。俺が異能の存在という疑いを残さぬように、誰でもわかる条件だけで理詰めする。簡単なことですよ、お客さん、って言外に諭す。
いや、こればっかりは本当に簡単なことなので、得意満面といった表情も出しようがない俺と対照的に、少年は感心しきりだ。目をぱちくりさせて、ほうほうと繰り返すばかり。

「で、注文の方ですけれど、さっきのでよかったですか?」
「はい、コーヒー、大きいのと、クッキーを」
「はい、少々お待ちを」

外は快晴。彼のバッグからはタオルが覗いている。少なくとも寒がりではあるまい。であれば、アイスコーヒーかアイスティーの二択だ。……ウチは駅前とか大通りにあるチェーン店のような、オシャレなナントカフラッペは出さないから、択が簡単なんだ。選ぶお客も、用意する俺も。
シュウカやハヅホは、それでもウチに来る常連なんだから奇特なものである。訊けば、洒落てなくて人が少ないから気楽なんだと。「美少女には安息の場所がない」という、まったく贅沢で切実なお悩みなのは分かるんだが、ちょっとだけ申し訳なく思う。花の女子高生様のため、多少は幅を出せるよう検討するべきだろうか?

閑話休題。推理の根拠だ。

彼の入店後の行動は特徴的。来店早々ノートとテキストを広げるようなスタンスだ。陽はまだ高いし、おそらく長居をする。当然コーヒーは多く、甘いものも摘まみたかろう。勉強しながら、複数回に分けて摘まめて、甘すぎないもの。となると、ケーキでもスコーンでもなくクッキーだ。
……仮にそうじゃなくても、言えばクッキー食べてくれるかもしれないし。押し売りの陽で悪いが、こちらも売り上げが懸かっている。多少の誘導は許されてもよかろう。

全知につないで視なくてもわかる、肉眼で見ればわかる簡単な謎解きを終えて、俺は作業場に戻る。話し込んでた間にも新しいお客さんは誰一人来ず、いくら小さな店だとしても不安になってくるけれど、まぁ、慌ててもどうしようもないか。
俺は豆とか、砂糖とか、諸々の数の確認を始めた。

>>つづく>>

3-2>>

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