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なぜ「Webアクセシビリティ」なのか

昨日、スクリーンリーダーの話をnoteしましたので、表題に関わるパーツがほぼ揃ってきたようです。若干足りない箇所もありますが、思い立ったが吉日。えいやと投稿します。

先に言ってしまうと、何でもかんでも絶対Webアクセシビリティに対応せよ、というつもりはありません。例えば、金銭的な負担、人手、或いは必要なデザインや機能等々に多大な犠牲を払っても対応せよという偏った話ではないのです。ここで合理的な配慮というものがキーワードになりますが、それについては「合理的な配慮とは何か、を考えてみる~電子書籍のアクセシビリティ」でも少しですが触れています。
ではリンクのあとに早速。まずは目次から。

目次

- 生活とインターネット
- 先ずは情報格差があることを知る
- 情報格差を埋めるツール: webの場合
- 情報は精査して必要なものを提示すべし
- 理解できない部分をどう埋めよう
- 「不」を取り除く
- 最後に~Webのもつ力とは

生活とインターネット

もののインターネット、IoT:Internet of Thingsという言葉を度々耳にするようになりました。職場や家庭にも、インターネットに繋がる機会は日常生活に溶け込んできています。それと意識せずに使用していることもあります。以前に比べれば、特別な知識がなくてもツールとして使えるようになりました。
ただ、インターネットなどの新しい技術に不慣れなかた、なかなか活用できないかたも居ます。例えば高齢者や障がい者のかたです。
今日の話に両方を入れると幅広く長くなりますので、ここでは主に視覚障がい者を念頭において説明していきます。

先ずは情報格差があることを知る

そもそも日常生活の上で、障がい者のかたはどのように情報を得ているのでしょうか。障害によって必要な情報が得られないのでは、日常生活に支障をきたします。「情報障がい者とウェブアクセシビリティ~情報保証について」で記したように、例えば道を歩いている時であれば、白杖と点字ブロックがそれをサポートします。盲導犬や聴導犬のような介助犬もそのひとつです。

また時間が知りたければ、時を知るで書いたような触読式時計や音声式腕時計があります。

自宅や職場であれば、最近でしたらスマートスピーカーもその一助になるでしょう。インターフェースとしての音声~「アクセシビリティの祭典」所感_その1では、視覚障がい者のかたの日常生活でのスマートスピーカー体験談について記しました。

また、映画でしたら最近はご存じですか、バリアフリー上映で紹介したような「音声ガイド付きバリアフリー上映」が増えてきました。

このように、現時点で発生している情報格差のごく一部ではあるでしょうがそれを埋めるためのツールや手立てがあります。

なお、この情報格差は身体的なハンディキャップがあるかた以外にも、日本に住む外国人で日本語が不得手なかたにとっても起きています。短期間の滞在である旅行者も同様です。

日本人は日本語の中で生活していますからそれと感じる機会は日常生活で少ないですが、例えば、地方に赴任した医師がその地域のご高齢者と治療中にお話をしようとしたところ、方言が理解できないというシーンを考えてみましょう。看護師さんが中に入って、いわば通訳をし治療を進める。医師は、この現場ではマイノリティに属していることになり、情報格差が発生しているとも言えるでしょう。
また「自分の思う"マイノリティ"という位置づけは正しいのか_前編」でも書きましたが、手話を使えない私がもし、手話でコミュニケーションをとっているグループの中にいたら、ぐっと情報量が減ります。おそらく、そこのメンバーのかたが情報共有の手伝いをしてくれるだろうと思いますが、100%情報を得ることは難しいでしょう。また、手話でコミュニケーションをとっている間柄ならわかるちょっとした習慣などを踏まえて、何かを察知するというのも厳しそうです。

情報格差を埋めるツール: webの場合

組織内の講座などでウェブアクセシビリティの基本的な説明をすると、初心者のかたに聞かれる定番質問がいくつかあります。その中のひとつが、「ウェブアクセシビリティとマシンリーダブル」にも書いた
「目が見えないかたもインターネットできるんですか?」
というものです。

この記事では、視覚障がい者のかたのインターネット利用状況を動画で説明しているものも紹介しています。

ですが、普段私たちは視覚障がい者のかたがどのようにインターネットを使っているか、直接見る機会はやはり少ないというかたが殆どでしょう。

視覚からの情報量は五感の中でも多く、「情報の8割から9割は視覚から」とまで言われます。
(但しこの視覚優位とその割合については少し割り引いて考える必要があります。興味のあるかたは「情報の8割から9割は視覚から」は本当なのかをご覧ください。) 視覚障害による情報格差を埋める術はありますが、皆が皆対応できるわけではありません。やはり何かしらネックになるものがあります。
晴眼者にもITに強い人・弱い人がいるのですから、視覚障がい者の中でも差はあるのは想像にたやすいはずです。

さて私たちが日常でネット通販を使って日配品や衣料などを注文するのが便利なのと同様、視覚障がい者のかたを始め障がい者にとってもネット通販は便利です。役所に行って何か調べたいときも、誰かのサポートなしに先ずインターネットで検索もできます。

メモ:スクリーンリーダーのシェアとその推移」で紹介したように、視覚障がい者がパソコンやスマートフォンなどICT機器を利用する際に使用するにはスクリーンリーダー、画面拡大ソフトといった支援ソフトを利用します。

スクリーンリーダーはツールとしての性能があがってはいますが、以前として不得手なものがあります。画像の情報がそれです。また、PDFもその作りによっては苦手であり読み上げが困難になります。(なぜPDFファイルをアクセシブルにしなくてはいけないのだろう-前編)

デザインとしてのみの画像であれば、その情報が欠けても大まかな情報は伝わるでしょう。問題は、画像に重要な情報があり、その情報が欠落すると影響がある場合です。

情報は精査して必要なものを提示すべし

HTMLファイルで、画像部分には代替テキスト(alt)が入れられるようになっています。そこに画像に含まれていた重要な情報を入れておくと、スクリーンリーダーが読んでくれます。

ただ、代替テキストとして何でも入れれば良いというわけではありません。

例えば、ホテルや店舗の所在地を示す地図の画像があったとして、その代替テキストに「地図」と書いても意味がありません。音で聞いたときに、例えば駅からホテルまでがわかる情報ではないからです。地図がそこに埋まっている意味を考えれば「地図」と読み上げられることのナンセンスさがわかると思います。

動画についても音声ガイドを工夫して埋め込む必要があります。(動画のウェブアクセシビリティ対応「音声ガイド」)

理解できない部分をどう埋めよう

障害の程度の重さはひとそれぞれです。

障がい者万人が満足するよう予め整備することは、はっきり言って困難です。それは別に障がい者に限らず、晴眼者にとっても同じです。ただ、体験を一時的にしてみることはできます。

白杖歩行体験をしてみる(Blind Stationでどこでも白杖歩行体験~「アクセシビリティの祭典」所感_その2)

自社サイトなど関わったウェブサイトをスクリーンリーダーで読み上げてみる(自社サイト、音声読み上げ試してますか?- Apple社アクセシビリティページの問題点)

また、HTMLファイル+cssファイルのウェブアクセシビリティ評価ツール miCheckerを使うと、評価のみならずスクリーンリーダーで読んだときの読み上げ順や到達時間のシュミレーションが表示されます。

もちろん機会があれば生の声を聴く、或いは調査から不便さを知るといった方法もあるでしょう。しかし、何をしてもその立場になってみないとなかかな理解が進まないというのは、仕方がないことでもあります。

ただ、一方で日本国内のみならず海外からもWebアクセシビリティを始めとする対応が求められているのは忘れてはなりません。
マラケシュ条約の批准で何が期待されるか」にも記した通り、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」が来年の1月1日には施行されます。

またマラケシュ条約より前から、グローバルサイトがある企業では海外の規準にあわせてWebアクセシビリティ対応をしているということもあるでしょう。日本には罰則規定はありませんが、国によってはWebアクセシビリティの不備による訴訟問題にもなっています。
なお海外のWebアクセシビリティの動向については、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)の植木氏の資料が詳しく、かつ判りやすいのでご紹介します。

PDF資料: Webアクセシビリティ 海外の気になる動きと日本国内の最新動向(WAIC)

「不」を取り除く

ビジネス的にとらえれば、マーケティングとは「不」を取り除くことと考えます。不便、不備、不満、不自由‥ユーザーのニーズがそこから見えてきます。

視覚障がい者の困りごとが晴眼者が我が身のことと置き換えるのには限りはありますが、それを埋めるのが技術や技量でありプロとしての知見や経験、倫理観が試されるところです。
― ここで倫理と書いたのは、罰則規定がないにせよ社会の一員として関係法令を理解し遵守に努めるのは当然ではありますが、一方で法律は常に後追いであると認識する必要がありそれを支えるのが倫理観であるためです。倫理観といってもどう判断していいか判らないという場合は「モラル・マシン~K.I.T.T.(キット)だったら、どう判断するだろうか」でも紹介した、セブン・ステップ・ガイドが使えます。

なお、余談ですがこの罰則について。罰則規定がない、拘束力が緩めだと正直予算取りする時や客先の見積等の後押しとして物足りない時も経験上多々あるのですが、逆に考えると工夫のしどころや腕の見せどころではとも言えます。

最後に~Webのもつ力とは

Webアクセシビリティに関するJISのタイトルは『高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ』です。ですが、決して高齢者・障害者ありきではありません。

JISの規格票に、適用範囲として以下のように記されています。

高齢者や障害のある人を含む全ての利用者が、使用している端末、ウェブブラウザ、支援技術などに関係なく、ウェブコンテンツが確保すべきアクセシビリティの基準について規定する。

ここを読むと判る通り、高齢者や障害のある人を含む全ての利用者に対するものがこのJIS X 8341-3です。
なおJISは、日本語名が日本工業品規格から「日本産業規格」へと近々変わります。

最後に以前にも引用しましたが、英国のコンピューター技術者で計算機科学者で、約20年前、WWW(World Wide Web)の仕組みを考案し、こんにちのインターネットの基礎を築いたティモシー・ジョン・バーナーズ=リーの言葉を再掲します。ぶれてはいけない、大事なところなので。

“The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.”

Webのもつ力とは、そのユニバーサル性にある。つまり、障害の有無にかかわらず、誰もがアクセスできることこそが、Webの本質的な側面のひとつである。

「Webアクセシビリティ」を知ってからもう10年以上(15年くらい?)経ちましたが、正直、なぜ「Webアクセシビリティ」なのかという問いはこれからも、この先も自分の中にあると思います。また折を見て、同じタイトルの記事を書くかも知れません。
本日はこれにて。

(了)

ヘッダー写真 撮影地 ニュージーランド クライストチャーチ ©moya

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最後までご覧いただきありがとうございます! 現在放送大学でPDFのアクセシビリティを卒業研究中。noteはそのメモを兼ねてます。ヘッダー写真はnzで私が撮影しました。 【ご寄付のお願い】有料noteの売上やサポートはnzクライストチャーチ地震の復興支援に使わせて頂いております。